劇場公開日 2025年1月31日

「それでも二人は前に進む」リアル・ペイン 心の旅 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0それでも二人は前に進む

2025年2月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

難しい

亡くなった祖母の遺言に従い、
ニューヨーク州に住む
『デヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)』と
『ベンジー(キーラン・カルキン)』の従兄弟同士が、
彼女の故郷ポーランドに向かう。

祖母は第二次大戦を生き抜いたユダヤ人のサバイバー。

二人の旅の目的は、
ホロコーストの史跡をメインに巡るツアーに参加することと、
彼女が嘗て住んでいた家を訪れること。

幼い頃は兄弟同然に育った二人は今では疎遠。
間には目に見えない感情のわだかまりが横たわる。

今回の旅でその距離を昔のように戻したいとの意図が
祖母が遺した真意であるはず。

ホロコーストの史跡を巡るといっても、
ツアーそのものは気軽に参加できる予定調和的なもの。

『ベンジー』はそこでエキセントリックな言動で
一行を困惑させる一種のトリックスターとしての役割を演じる。

唐突で場にそぐわぬ発言は、しかし
一点の真実を突いており、
周囲を困惑させつつ魅了する力を持つ。

対する『デヴィッド』は妻子もある社会的には成功者。

『ベンジー』の奇矯な行動に振り回され、
眉をひそめながらも、周りに頭を下げる良識人。

他方、面白みのない人物でもあり、
旅が終われば同行者の誰の記憶にも残らぬだろう。

ツアーの冒頭、六名の参加者たちは
自身のプロフィールを披瀝する。

ルワンダの虐殺を生き延びたのち
ユダヤ教に改宗した黒人青年を始めとし、
皆が夫々のドラマを語るなか、
二人は祖母が亡くなったことにのみふれ、
自分たちのことを詳しくは語らない。

が、旅が進み
『ベンジー』の抱える心の闇と、
そのことに胸を痛める『デヴィッド』の心情が明らかに。

旅を終え、帰国の途につく二人。

空港に降り立っても旅立つ前と同じ会話が繰り返され、
大きな変化があったようには見えない。

原因が分かることと、改善されることは別物だから。

とは言え、前へ進むための小さな萌芽が
確かに起きていることは示され、
鑑賞者は、ほっと安堵の吐息を漏らす。

『ジェシー・アイゼンバーグ』の速射砲のような台詞回しは健在。

常であれば、彼をこそ他から際立たせる話法なのに、
本作では普通人に見えてしまう不思議。

『キーラン・カルキン』の特異な個性を際立たせる数々の描写と共に、
不器用な二人のことが次第に気になりだすファクターとして上手く機能させている。

ジュン一