「大変面白く観ました!」大きな玉ねぎの下で komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
大変面白く観ました!
(完全ネタバレなので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
(レビューが遅くなりました、スミマセン‥)
結論から言うと今作の映画『大きな玉ねぎの下で』を大変面白く観ました!
私的には特に良かった場面が2つありました。
私的1つ目の良かった場面は、村越美優(桜田ひよりさん)に対して業務連絡の交換ノートで思いやりのあるやり取りをしていた相手が、実際の現実の態度では嫌な感じだった堤丈流(神尾楓珠さん)だと、村越美優が分かった後の場面です。
業務連絡の交換ノートの相手が実際は現実で嫌な感じの人物だと分かったならば、落胆したり不機嫌になったりするのが自然だとは思われます。
ところが、村越美優は、業務連絡の交換ノートの相手が堤丈流だと分かった翌日の店への出勤時に、スキップして登場し、心の深層としては、堤丈流がその相手だったことに喜んでいたと伝わりました。
この村越美優がスキップして店に出勤する場面は、現実では嫌な感じの堤丈流のその奥に、思いやりある別の側面があることを発見した喜びにも感じました。
そしてこの、その人のさらに奥には別の(良い)側面があることの発見の喜びを大切な場面として描く姿勢は、この映画を根底で貫いていたと思われるのです。
私的2つ目の良かった場面は、望月(和田正人さん)が、夜のバー店員の堤丈流を店のカウンターの酒の席で自分の会社に軽く誘い、その後、堤丈流が、母(西田尚美さん)の病気の経過もあって望月の話を鵜吞みにして望月の会社を訪ね、あっさりと就職を望月から断られる場面です。
そして、この時に望月は、大切な時間が奪われることがいかに社会人でダメかを、堤丈流にシビアに伝えます。
この場面は一見すると、(村越美優のスキップの場面とは真逆で)望月の軽口のその奥に、嫌な人間の冷淡さシビアさが垣間見えた場面にも思えます。
しかしながら、望月が自身が働く会社への堤丈流の就職を(入り口で)断った理由は、堤丈流のテンプレの履歴書に理由がありました。
もっと踏み込んで言うと、この場面は、(村越美優が気がついてスキップして喜んだ)堤丈流自身の(思いやりなどの)奥底にある本来の良さに、堤丈流自身が気がついていないのではないか?(それがテンプレ履歴書の理由ではないか?)と、望月が指摘した場面だったとも言えるのです。
そして堤丈流の本来の良さが、果たして望月の会社で発揮出来るのか?との更なる問い掛けの場面だったとも思えます。
その自身の良さの問い掛けと発見は、堤丈流自身が時間を取って行う必要があり、それを相手にゆだねるのは相手の大切な時間を奪うことになるのだ、との望月の趣旨だったと思われるのです。
つまり、村越美優が堤丈流のその奥の本来の(思いやり優しさなどの)良さに気がついてスキップして喜んだ場面と、望月が堤丈流の自身の奥にある本来の良さに気がついてないとの批判的な指摘の場面は、根底では同じ所でつながっていると思われるのです。
そして、村越美優が看護師として生きて行くと決めたからこその病院内での悩みもまた、村越美優の奥の別の人間的な側面です。
加えて、堤丈流がまだ何者かとして生きて行くと決めていないからこそ、堤丈流は本来持っている思いやり優しさが自然にあふれ、彼が村越美優の存在を根底から肯定していると、村越美優にも伝わります。
堤丈流も、行く先を決めている村越美優への敬意を持ち、自身も村越美優に続こうとの想いも伝わって来ます。
堤丈流と村越美優が自然とひかれ合うのも、深く納得する自然な流れだったと思われます。
そして今作は、堤丈流の両親の過去の文通からの結婚の話の過去編も、表の文通相手とその奥にいる実際の文通相手との、二重構造になっています。
この過去編でも、その人のさらに奥には(友人関係含めた)別の良い側面がある、人間に対する希望を一貫して描いているように思われました。
それが今作に対して多くの観客が高い評価を感じている要因だと、僭越思われました。
今作は、草野翔吾 監督の前作の映画『アイミタガイ』に引き続き「偶然」がキーワードになっているとは思われます。
そして前作に引き続きと今作も「偶然」の非現実性を超えて、しっかりとした人の深さに踏み込むことによって、観客の心の深いところに届く秀作に仕上がっていると僭越思われました。
ただここまで深く人間を描くことが可能なのであれば、「偶然」の要素が無くても同様な作品構築が出来るのではないかとも、僭越思われたりもします。
なので今後の草野翔吾 監督は、「偶然」の要素がない人間の深さを表現した作品にも挑戦して欲しいと、僭越ながら思われたりもしています。
しかしながらそんなことはさておき、今回も深さと優しさと人間に対する希望と重層性に満ちた、素晴らしさある作品だったと、大変面白く最後まで今作を観ました。
役者の皆さんも、それぞれ深さと厳しさの中にも優しさある、素晴らしい演技だったと、僭越ながら思われました。