「すれ違いぶりがシンクロする二人」大きな玉ねぎの下で KaMiさんの映画レビュー(感想・評価)
すれ違いぶりがシンクロする二人
ペンフレンドとの文通が盛り上がり、いつの間にか膨らんだ理想像。でも現実はまさかの…という設定。こういうすれ違いドラマは昔から何百回も描かれてきたであろう。しかし爆風スランプの30年以上前の曲をモチーフに、親子二代の物語を交互に描く構成など工夫されており、柄にもなく泣いた。
就活の時期なのに皆と同じようには動けない、斜に構えた価値観の神尾楓珠君。偶然居合わせた居酒屋で、神尾君が語る「すべては偶然だよ」という人生論に、「聞き捨てならない」とばかり割り込んでくる桜田ひよりちゃん。この冒頭場面から引き込まれた。
二人のすれ違いぶりに説得力があるからこそ、クライマックスの和解が生きてくる。この映画は会話劇が面白く、二人の口論をずっと聞いていたいと思った。「僕はそんなこと言ってない。言った僕が言っているんだから間違いない」「あなたはそう言っているように聞こえた。聞いた私が言うんだから間違いない」など。相性が合う二人は、口げんかもシンクロしているのだ。
親世代の、昭和から平成に変わる時代の文通ドラマも効果的。大人だってお手本となるような人生は送っていないけれど、ほろ苦い昔話をさらっと若者に伝えて、背中を押す役割を果たしている。爆風スランプをカバーした主題歌のように、今の若者は全部をオリジナルで作る必要はなく、等身大の物語を作っていけばいいと教えているようだ。(そういう私は完全に親世代の年齢)
正直に言えば、リアルな口げんかに比べてノートでの文通にそれほど魅力は感じず、文章と生身の人格を最終的にどう融合したのかも描いて欲しかった。冒頭で挙げたような性格の好対照が魅力的だっただけに。(対面するとぶつかってしまうけれど、ノートで交流したような弱さや迷いも分かち合っている…そんな二人なのだと脳内補完しておきます)