「時空を超えて描かれる夫婦の再生物語(パラレルで)」ファーストキス 1ST KISS 夜さんの映画レビュー(感想・評価)
時空を超えて描かれる夫婦の再生物語(パラレルで)
WOWOWで「1ST KISS」鑑賞。
2025年の映画、時空を超えて描かれる夫婦の再生物語。
駅のホームに転落した赤ちゃんを助けるために人身事故に遭った夫の駈(かける)の姿から物語は始まる。
すっかり冷め切って会話もなく「無」になっていた夫婦関係の駈とカンナ。
3年待ちの餃子が焦げたことで強く「戻りたい」と願って職場に戻る道中、妻のカンナはタイムトラベルできるようになるという設定に少しクスリとしながらわりと早めに物語は展開していく。
妻を残して死んでしまった夫の過去の行動や嗜好等を変えたら、夫は生きていて、未来も変わるんじゃないか?と思い始めたカンナ。
あんな関係になってしまっていたけど、タイムトラベルを続けていくうちに、一からやり直したいと願い始めたカンナの想いにまず涙。
何度もタイムトラベルを繰り返し、行き着いた先の答えを見つけた時の懸命さに号泣。
カンナ役の松たか子さんの色々な表情も見られてそこも愛おしかったです。駈役の俳優さんの絶妙な表情の差も。
歳を重ねた声と、若い頃の声の使い分けもうまい。
若かりし頃の駈に会いに行くためにカンナが費やしてきた日々を知った時の駈の姿にもとてもあたたかい想いを感じられる。
夫の若い頃との交流を重ねていくうちに出会った当時の恋心を思い出していくカンナが可愛らしくてまた涙。
のちの夫になる15年前の駈が、カンナの想いを知ったあとのターンからの「僕側が出来ること」をしている姿には、あたたかく幸せな涙が止まらないまま終わりました。
もしもの世界とはいえ、その変わるための努力ができる人がどれだけいるのか分かっている人なら共感できるものがあります。
正反対で、好みが違っても心を交わすことを忘れずに気にかけ続けること。
いってらっしゃい、いってきます、ありがとう、ごめんね、今日はどうだった?
そんな毎日は当たり前のようで当たり前じゃないこと。
日常の中で育んで積み重ねていくものは、出会った頃の特別なイベント以上に、毎日の生活の中にもっともっとあること。
出会い方だけじゃなくて、なぜか惹かれてしまう人、運命って切っても切れないものがある。
やっぱりこの人が好きだ、と再発見したカンナと同じように駈も最初からそうだった。
夫婦として何を意識していく必要があるのかを、時空を超えてタイムカプセルのように置いてきた…そんなカンナの行動には意味があったと描いてラストに向かう。
前半後半でお互いの視点が完全にあるわけではないけれど、実際もし死ぬ日を知っていたら、心がけられることがある。
何度でもやり直したい、貴方に生きていてほしいから…貴女がこれからも幸せに生きていてほしいから…
そんなもしもを描いて、家族としての日々を大切に…と出来ることを伝えてくれる作品。
細かい描写や表現が多く、セリフも染み入るものがたくさん散りばめられています。
惹かれ合う時の絶妙な距離感や、夫婦のあるあるネタも含めて全てに共感できる作品でした。
駅からの帰り道、家に着くまでの間にアイスを食べちゃう2人。
厳密には同じ世界線の未来ではなく、分岐したことによって、パラレルの未来が変わった時には、出かける時のやりとりや、餃子が届くシーンも変わることができた。
夫となった駈の意識により、何気ない日常の中で見出してきた、愛しい瞬間をたぐる手紙。
経験したことがある人にはその繊細な心情描写が響くのではないでしょうか。
カンナに宛てた手紙を読む駈の涙声にもらい泣き。
劇場で観ていたら泣きすぎて放心状態でしばらく動けなかっただったろうと思います。
