「15年の時空を超えた初恋を見た」ファーストキス 1ST KISS talkieさんの映画レビュー(感想・評価)
15年の時空を超えた初恋を見た
<映画のことば>
「ごめんね。今からあなたと浮気してくる。」
駈(かける)と、15年間の時空の壁を経てファーストキスを交わしたときのカンナの表情を、評論子は忘れることができません。
まさに15年間の時空の隔たりを超えた、二度目の「初恋」というに相応しかった、彼女の、その表情からしても。
離婚を決意し、その戸籍届まで準備はしていても、カンナのどこかしらでは、まだまだ駈のどこかに未練は感じていた―。
そのことは、自らの意思で、過去の駈に会うための過去へのタイルスリップの「旅」に出かけたことからも、自明といえるでしょう。
そう受け取ってみると、彼女のその心根(真意)を言い表しているセリフとして、上掲の映画の言葉は、そのものズバリ、本作を通底するカンナの想いだったのだろうと、評論子は思いました。
前作『グランメゾン・パリ』というシリアス路線(?)に舵を切って、評論子的には残念な結果に終わっていた塚原あゆ子監督としては、得手のファンタジー路線に再び舵を切り直して、本作で本領を発揮(再発揮)したと評すべきと、評論子は思います。
けっきょくは、3年前に注文した人気の餃子をカンナ一人で受け取って、悪戦苦闘しながら焼いて食べたということは、彼女の「作戦」は、最終的には成功しなかったようですけれども。
それでもら一見すると荒唐無稽なファンタジーに見せかけながら、スクリーンからジリジリと伝わってくるようなお互いがお互いを想い会う温かな二人の関係性を鮮やかに浮き彫りにしたという点では、いかにも映画作品の表現法らしい、立派な佳作だったとも思います。
(追記)
駈が事故死する前にカンナが書いたのが「離婚届」。
彼が事故死したあとに書いたのが「死亡届」。
そして、彼と出会ってから最初に書いたのは「婚姻届」だったはず。
カンナと駈との人生の節目には、常に戸籍の届出がありました。
法務省のウェブサイトを見ると「戸籍制度は、日本国民の国籍とその親族的身分関係(夫婦、親子、兄弟姉妹等)を戸籍簿に登録し、これを公証する制度です」と、いかにもお役所らしい、無味乾燥な説明が書かれているのですけれども。
しかし、そういう戸籍簿の記載の、その「裏側」には、人が歩んできた人生の万感が秘められているようにも、評論子には思われます。
(追記)
「結果オーライ」という言葉があるとおり、このニッポンという国では、結果さえ良ければ、多少とも方法(やり方)の不味(まず)さは、多目に見てもらえる国のようです。
駈(かける)に有ること無いことを吹き込むことで、桃山銀座商店街にあるという「たかまつ精肉店」に対してカンナがした営業妨行為(民事的には不法行為、刑事的には偽計業務妨害)は、駈とカンナとの「結果オーライ」ということに免じて、不問になってしまっています。
ハッピーエンドに免じて「うるさいことは言うな」ということであれば、まったく「ニッポンの人」らしい解決法であり、評論子も、この話はここだけにして、「お口にチャック」を決め込みたいと思います。
(追記)
<映画のことば>
「恋愛感情と靴下の片方は、いつかはなくなります。」
「恋愛感情がなくなると、結婚生活に正しさが持ち込まれます。正しさは、離婚につながります。」
自身の結婚生活を振り返ってみても、なんとも、まったくを以て身に詰まされる箴言です。
こういうものも、「脚本の妙」と言えるのでしょうか。
評論子には(にも?)、まったくを以て耳に痛い脚本でもあります。
(追記)
カンナを演じた松たか子の演技。
物怖(お)じしない、さっぱりとしたカンナ性格を、彼女は演じきっていたとも思います。
「適材適所」とは、当(まさ)に、このことなのかも知れません。
共感ありがとうございます。
死んでほしくない!縁が切れても!と奔走するのはやはり愛情だったんでしょうね。タイムスリップはそれを再確認する為だったのかもしれません。