「不可解な作品」海の沈黙 お喋りな啄木鳥さんの映画レビュー(感想・評価)
不可解な作品
北の国からが面白くて温かくてその長い物語が大好きだったし、倉本聰さんは脚本を書くとき主人公だか登場人物だか忘れたが、三代前まで遡ってキャラクターを考えるとどこかで語っていらっしゃったのを読んだ記憶があって、緻密でしっかりした脚本を書く方だと思っていたのだけど、この映画はちょっと乗れなかった。
主人公・津山竜次が孤高の天才なのはいいとする。石坂浩二さんの田村画伯が絵の大家として豪勢な暮らしを送っているのもいいとするが、津山竜次側の設定がどうも気になって仕方がなかった。
本家本元の大作を凌ぐ贋作を描いて億単位で売っていたようだし、ヨーロッパの富裕層に入れ墨を彫ったりしていたようなので、それなりの生活は送れるんだろうけど、スイケンってどこから出てきた何者? 彼が津山の財産一切合切を管理しているのだろうか。財産管理から料理の腕前、人脈づくりまで何でもこなすスーパーマンで、しかも、津山を贋作作家に追いやった田村画伯に対する復讐も実行に移そうとしている? かつての恋人も再会させちゃうし、生きた標本も調達し、用済みになれば切っちゃうし、新しい標本候補も見つけてしまう。そうした標本たちはみんな津山に惚れてしまう。大体個人の収蔵品ならともかく、大臣まで見に来る大規模な展覧会の目玉作品という評判が立てば、本物の所有者が「うちにも同じものがある」と名乗り出てこないのだろうか。物語が始まった当たりから最後、津山が死んでしまうまで津山がせっせと描いていた絵は贋作ではなく、彼本来の作品なのだろうか。
こういう不自然なところが気になってくると、映画の世界に入り込むことはできない。長年構想していた作品というわりにちぐはぐな印象が否めなかった。