「テーマは深く人物はさらに深く」海の沈黙 バーバヤガーさんの映画レビュー(感想・評価)
テーマは深く人物はさらに深く
長い時間を経て再会する二人と、小樽のノスタルジックな風景はよく合っていて、とても情緒がありました。
「このカウンターあの店だ」
「この景色、あの橋のこっち側だ」と思いながらも、見慣れた景色が今まで見ていたのと全然違う美しい映像になっていて、感嘆しました。
最初は、世界的な画家の「これは私の絵じゃない。贋作だ!」から始まる犯人探しのサスペンスのようでした。仲村タオルの雰囲気がいつもの刑事っぽいせいでしょうか。
後半は、美とは?真実とは?命とは?と問いかける複雑に絡み合った糸が織りなす人間ドラマでした。とても見応えありました。
海の中に胸まで沈んでこちら側を見る本木雅弘さんのポスターは印象的ですが、あれは入水自殺を計っているシーンではありませんでした。(そう思ってた)
過去から今、死から生、絶望から希望、未完から完成を見ようとしている、そんな表情を捉えたものなのだと思いました。
中井貴一さんが演る「番頭」さんは、とても渋みがあります。
一生をひとりの画家に捧げて、美の何たるかに信念を持っている。
彼が携えている杖がまた美しい。
安奈(キョンキョン)が作るキャンドル作品には、ずっと心の奥底で愛し続けた人の顔が彫られていて、それが津山(もっくん)の手に渡り、蝋の涙を流すシーンには泣きました。
あと、津山(もっくん)が安奈(キョンキョン)に再会した時、「やぁ」と、ひとこと言うのですが、この「やぁ」はなんとも言えず官能的です。
(私だけ?そう感じたの私だけかなぁ?でも、そうなんですょ。)
悲しげで、優しさに満ちていて、懐かしそうな、寂しそうな。
こんなふうに、「やぁ…」って言われたら、腰からくずおれてしまうわ。ちょっと掠れた声なんです。
ビデオ買ったら、ここだけ鬼リピすると思う。
で、「この絵は私の絵じゃない。贋作だ!」と言った世界的画家田村(石坂浩二)は、贋作が自分の絵よりも優れていると内心認めていて、
それに妻(キョンキョン)とはずっと別居で偽物夫婦(笑)。
中身はこっちの方が偽物なのに、世間的に栄達しているので本物として扱われる。
本物と偽物。
リアルとフェイク。
今まさに私たちが溺れそうになっているテーマだと思います。
⭐︎倉本聰さんが話題になっていますが、監督がすばらしいのでは?海面から岸の火を映すカメラワークには心臓バクバクしました。
⭐︎みんながいいと言うからという理由で見てはいけない。倉本聰作品だからという理由で見てはいけないそんな理由で見たら、倉本聰さんの投げかけている問いに反するよね