「理解するにはメモリアルブックが必須だけど、映画代くらいはするんだよね〜良かったけど」海の沈黙 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
理解するにはメモリアルブックが必須だけど、映画代くらいはするんだよね〜良かったけど
2024.11.28 MOVIX京都
2024年の日本映画(112分、G)
贋作騒動によって再会する男女を描いた恋愛&ヒューマンドラマ
監督は若松節朗
脚本は倉本聰
物語は、ある占い師(津嘉山正種)から「背景に見えるもの」の指摘を受ける安奈(小泉今日子、高校時代:小野晴子)が描かれて始まる
占い師の言葉を巧みに交わすものの、彼女の脳裏にはある男が浮かんでいた
安奈は、世界的に有名な画家・田村修三(石坂浩二)の妻だったが、修三には別に女がいて、その関係は仮面夫婦のようなものだった
修三は日本絵画100周年記念の作品展に選出されていて、その幕開けには文部大臣の桐谷(佐野史郎)も登壇することになっていた
館長の小原(中村育二)の案内で館内を見回った修三だったが、ふと自分が描いたはずの「落日」に違和感を感じていた
その場は取り繕ったものの、夜になって再び「落日」と対面した修三は、「これは私が描いた絵ではない」と吠えた
その絵は貝沢市にて所蔵されていたもので、急遽、館長の村岡(萩原聖人)と副市長の大井(久保隆徳)が呼び出された
画商(田中健)から詳細を聞いても「古い話は覚えていない」と言われ、その絵がどのようにして展示会にまでたどり着いたのかはわからなかった
数日後、責任を感じた村岡は、奇妙な遺書を残して自殺を図った
そして、彼の意思のもと、参列者に遺書の複写が配られることになった
そこには「落日」に対する想いが綴られ、あの絵が贋作だとしても、私の心に訴えかけるものは本物だった、と書かれていたのである
映画は、その絵が中央美術館の元館長・清家(仲村トオル)の元に送られるところから動き出す
彼は絵画の修復などに携わっていて、彼の元には世界を騒がせている贋作の情報が舞い込んでいた
そのどれもが精巧な作品になっているが、おそらく同一人物のものではないかと推測されていた
そんな折、北海道の小樽にて、一人の女の水死体が発見される
女は近くの小料理屋の女将・牡丹(清水美沙)で、彼女の全身には刺青が彫られていた
その取材に訪れていた記者の伊吹(三浦誠己)は、偶然入ったバー「マーロン」にて、ある絵を見つける
世界的に有名な絵の模写のようだったが、どこか違和感のある絵で、伊吹はそれを写真に撮って、清家に見せることになった
清家は絵の中に刺青のようなものを見つけ、絵のサインが「Lyu」であることに気づく
そして、30年ほど前に姿を消した、天才画家・津山竜次(本木雅弘、高校時代:小島佳大、幼少期:田村奏多)のことを思い出した
彼は、修三と同じ師匠の門下生であり、高校時代にある事件を起こしていた
それは、師匠の娘である安奈の背中に刺青を彫ろうとしていて、それが理由で姿を消していた
小樽の女将の刺青も彼の仕業と考えられ、清家はそのことを安奈に伝える
そして、彼女は一路、小樽へと向かうことになったのである
映画は、基本的には竜次と安奈のラブロマンスなのだが、高校時代の刺青騒動以来会っておらず、二人の仲がどこまでのものかは描かれない
安奈がその後、修三と結婚することになった経緯とか、竜次の番頭を務めているスイケン(中井貴一)の背景もほとんど語られない
このあたりの設定は、映画のメモリアルブックに載っているので参考になるが、映画であの設定を読み解くのはほぼ不可能であると思った
物語は、竜次が「赤」にこだわっていて、それが海難事故で亡くなった両親が最後に見た「迎え火」であることに気づくのだが、そのシークエンスも安奈と会ったことで気づくという意味不明な展開を迎える
安奈と両親の海難事故の接点はほぼ無く、その事故によって竜次がどのような青春時代を送ったのかはわからない
その辺りをほぼカットしているので、竜次の心境の変化というものが映画からは読み取りにくくなっている
さらに、映画の根幹となるテーマは「美の価値」であり、それは金額や権威に囚われないものだということなのだが、それが人生を賭けて探した赤と繋がっていると感じるのもかなり難しい
結局のところ、美とは自己満足の世界で、そこに到達することができれば画家冥利というもので、それが見る人にどんな感情を与えるかはどうでも良いという感じに見える
そんな中でも、村岡のように感化される人もいるというもので、そういったものの価値と世間の認識のズレが不幸を呼んでいるようにも読み解ける
何が正解かはわからないが、ざっくりとした印象はこのようなものだったと書き留めておきたい
いずれにせよ、この世界観やテイストが好きな人向けで、それが万人受けするかはなんとも言えない部分がある
結局何の話だったのかわからないというところもあるし、安奈に刺青を彫らなかったのは正しかったみたいな感想になっているが、どう見ても怖くなって逃げられただけで、刺青を否定すると死んだ女将が浮かばれないような気がする
色々とわからない部分はメモリアルブックで補完するしかないと思うが、映画代ぐらいはするので、購入に関しては余程の動機がないと勧められないというのが正直な感想である