「いわば、ヤッてしまった世界線の「アイズ・ワイド・シャット」。」ベイビーガール しんざんさんの映画レビュー(感想・評価)
いわば、ヤッてしまった世界線の「アイズ・ワイド・シャット」。
「ファーストキス 1ST KISS」
が絶賛大ヒット公開中だが、そこに期待したものがなかってがっかりした人。その期待したものは、ここで観れる(かもしれない。)
「ベイビーガール」
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Babygirl。直訳すると、「かわいらしい・守ってあげたい存在」(男女問わず)らしいが、ここではもう少し掘り下げると、イケメンがキッドマンに対し、そう呼ぶことで支配的な言動で主人公の潜在的な欲望や弱さをさらけ出させる関係を表してもいる。
体は、90年代の「ナインハーフ」を代表するオシャレ系セクシー映画。舞台は現代だが、使われる楽曲は、ジョージ・マイケルやINXSといったそのころのものだし、主人公のちょっと困った娘の髪形もまさに、それである。
ぱっと見エロティックムービー。
しかし、なぜもはや名女優となったキッドマンが本作に出演し、体当たり演技をしたか、がオレの一番の関心事だった。
途中(どうせわかりきったことだが)旦那にバレて、(というよりバレるようにイケメンは行動している)家族が崩壊手前まで来たときに、ああ、これはあれだ。
本人の代表作(そしてクルーズ、キューブリックの傑作)「アイズ・ワイド・シャット」の妻アリスの在り方を再構築して、現代の「行き過ぎた多様性への配慮」にカウンターを当てることを目指したのではないか。
いわば、ヤッてしまった世界線の「アイズ・ワイド・シャット」。
とすれば、90年代のエロティックムービーが流行ったころの、「男目線」で作られてきた作品群が、実は「女性のほうの」自身の自我の目覚め、性の目覚めでもあった、という解釈が作り手側にあり、カウンターとして、キッドマンでないといけないし、低俗とされたエロティックムービーのルックをあえて採用したのはA24らしい、ということか。
「アイズ・ワイド・シャット」のレビューでは、ムラムラしたら、ただ奥さんとF**k、すっきりすれば「賢者」とまとめたが、あなたではイケない。と言われるとショックだが、私はこんなセックスが好きなのよ。と言ってくれることもないから、浮気して目覚めてきなさい、とは言えない。
だが、奥さん自身が自分の意志でそうされると、こっちはたまらないが、それも否定できないような流れになるのかなあ、と「ファーストキス」よりもはるかに、熟年期の夫婦(はい、そうです。ウチです。)の関係について考えさせられた。
ただ、確かに、「アイズ・ワイド・シャット」よりさらに「家庭」、「仕事」、「老い」、「性欲」について、とっても盛沢山なテーマなんだけど、見た目が「エロティックムービー」で片づけてしまわれそうなところが、狙い通りであると同時に「ありふれた」「安っぽい」ともとらえられそうなところが痛しかゆしだ。
追記
これなら、夫役はクルーズでしょ、というわけにはいかないだろうから、のアントニオ。(アントニオもエロティック系出てたね)
イケメンとの殴り合いに負け、咽び、声がかすれる姿が最高に哀れで、最高にかっこよかった。