ブルータリストのレビュー・感想・評価
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An Intricately Designed Picture
Every bit as a labyrinthine, audacious, colossal, and dedicated a piece of artwork as the facility Brody's fictional architect toils at great expense. The story of a practiced tradesman and Holocaust survivor who rises from rags to supporting the rich, this layered and oversized story might have one believe it is a true tale. It's grand cinema that arguably succeeds to be this era's Citizen Kane.
技巧派監督が撮ったPTA作品のような大河ドラマ
ムチャな喩えだが、いわば『第三の男』の技巧派キャロル・リードが『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ザ・マスター』のようなポール・トーマス・アンダーソン作品を撮ってみせた、といった感じだろうか。
途中15分の休憩を挟み前・後半100分ずつの長尺、ビスタビジョンでのフイルム撮影にこだわった映像、大胆さと繊細さが光る構図、隅々まで意匠を凝らした音響——とにかく全編にわたり才気がみなぎる。戦後アメリカの一断面をあぶり出す濃密な大河ドラマでありながら、どこかクールな現代アート、インスタレーションのようにも見える。そんな本作を『TAR/ター』や『関心領域』など昨今のアート系作品の潮流に与する1本と見做してもいいだろう。
そうした独自性は、音楽の使い方ひとつをとってみても明らかだ。
たとえば妻・姪との生き別れから主人公のアメリカ到着までを一気に見せるオープニングでは、客船の汽笛か巨大製鉄所の騒音を連想させる奇抜な「序曲」が鳴り響く(※余談だが、耳にした瞬間、某FM局のステーション・ジングル「♪エイティ ワン ポイント スリー」が思い浮かんだ…笑)。
かと思えばラストは、ヴェネチア・ビエンナーレの背後に流れる打ち込みのクラブミュージックに続けて、エンドロールのディスコサウンド「One for You, One for Me」で幕を閉じる。まるで『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』が描く1980年代に直結するかのように。
しかし映像面では、こうした数々の才気走るシーンより、風船と花束を携えた主人公たちが妻や姪を駅で出迎える場面の方が印象に残った。なんてことないシーンだが、絶妙な色彩設計が1953年という時代を彷彿とさせる。まるでソール・ライターの写真のようだった。
そんな本作でもう一つ触れておかなければならないのは、昨今の米アカデミー賞ノミネート作の中で『関心領域』や『リアル・ペイン~心の旅~』と同じく、ここにも「ホロコースト」の影が重くのしかかってくるということだ。
本作では、ホロコーストからの生還体験を有する主人公たちがペンシルベニアの富裕層の人々に対して覚える違和感や決して相容れない感情などが描かれるが、それにとどまらない。主人公たちは、ナチス・ドイツ、旧ソ連、アメリカ(!)など「時の権力」によって幾度となく肉体を傷つけられてきたことが陰に陽に示されるのだ。
ところで、建築家を主人公にした代表的な映画と聞くと、国立映画アーカイブで以前観たキング・ヴィダー監督の『摩天楼』(1949)が真っ先に思い浮かぶ。この映画の原作小説は『ブルータリスト』の脚本家もかなり参考にしたようだが、2本の映画に類似点はあまり見出せない。あえていうなら、妥協を知らぬ主人公が工事現場の作業員に一時身を落としたり、パトロンの実業家と度々対立するくだりとか、そのパトロンがやがて辿るであろう末路のあたりだろうか。
そんな主人公が志向するのがいわゆるブルータリズム建築。その大まかな特徴としてよく挙がるのが「武骨で粗野」「荒々しく大胆」などといったフレーズだ。しかしこの映画に出てくる礼拝堂の建物は、ラストで姪が明かす「真の設計意図」とは別に、トキシック・マスキュリニティに囚われた男たちの虚しい敗北を象徴しているようにも見えた。
最後に出演者について。主人公の運命を左右する実業家役のガイ・ピアースは少々物足りない。この人物は傲慢で凶暴さを秘めている一方、ヨーロッパ的な知に羨望と嫉妬の念を抱いたりもする。またどこか憎めない愛嬌もある。そんな難しいなキャラではあるが、ガイ・ピアースは演じ切れていないように思う。ムリを承知で挙げると、先頃引退を撤回したダニエル・デイ=ルイスや故フィリップ・シーモア・ホフマンくらいの押し出しが欲しかった。
ともあれ、この映画は、劇場の大スクリーンと臨場感ある音響システムで観るのにうってつけなので、強くオススメしたい。
以上、特別先行試写会にて鑑賞。
アメリカンドリームの闇
"アメリカン・ドリーム"の闇 = ありのままの美しさ(姿)で一つの時代(過去)を定義し、時を超える普遍性
逆さの自由の女神像 = ポスタービジュアルにも使われているこの印象的なショットこそが、本作のテーマを端的に象徴するエスタブリッシュショット。移民が最初に目撃する希望の象徴の失墜。つまり、難民や売れない芸術家にとってそれぞれの夢や希望 -- 何より生そのもの -- への【道】を切り拓くような一筋の【光】であるアメリカもパトロンも、その出会い自体が「救われた!これで一生安泰だ」というゴールなのではなく、あくまでそこから別の苦労や挫折、人間の暗部・闇に迫る新たなスタートに過ぎないということ。観てわかった、建築様式のブルータリズムだけでなく、文字通りの「残酷主義者」でもあるタイトル。美の核芯、過去の存在。
"目玉"から鱗!釘付けになるファーストシーンから圧倒されては、オープニングクレジットが流れるところまでで完璧にやられた。そしてそこから展開される、何層にもなっては、あるがままの姿が剥き出しになっていくようなさまに引き込まれてしまう…。どのキャラクターにも影があって、闇を抱えており、その複雑さには魅了されてしまうものがある。彼らが体現しては暴くアメリカンドリームの疑問や醜さ(虚栄・嘘偽り)。"Miller & sons"アメリカ人はファミリービジネスが大好きだ!"我々"外国人はアメリカの人々に歓迎されていない…!! 改名・改宗してアメリカ人になることをえらんだ"従兄弟と、自身の原点エルサレムに行くことを選ぶ姪。そのどちらでもない(そして恐らくこれが一番多数派では?)主人公たち。その時代を生き残った生き証人であり、アーティスト = 表現者として語り継ぐこと。
怪我した鼻と車や列車が走ってゆく道。『戦場のピアニスト』エイドリアン・ブロディがまたもやホロコーストを生き延びたサバイバーを演じ、『博士と彼女のセオリー』フェリシティ・ジョーンズがまたもやそんな主人公に寄り添う妻役を演じた本作は、素晴らしい演技だけでなくフィルム撮影、音楽(サントラ最高すぎる!)、衣装、そして光を(時に意図的に窮屈かつ居心地悪くも)心ゆくまで堪能でき、本編尺は長いけどずっと観ていられるような映画としての強度・力強さには疑う余地がない。作中30年もの時が流れ主人公の半生を描き、大河ドラマと形容するに値する歴史巨編にふさわしい裏方スタッフの働きの充実っぷり(ex.『アラビアのロレンス』『ラスト・エンペラー』)!!
また、近年インディペンデント映画や中小規模な作品を中心に活躍するガイ・ピアースが、初登場シーンから強烈なインパクトを残す。キレやすい支配者(上流・特権)階級に、その一因にもなっていそうでありながら同時に母親思いな(屈折した)一面にもつながる生い立ちバックグラウンド。かたや図書室改装の1000ドル、かたや母を捨てた祖父母への手切れ金の1000ドルという同じ額の重さの違いと、そして政治的な力も働いた結果85万ドルもの巨額の予算をかけて建設される母の名前を冠したコミュニティセンター。夢を叶える = 思いを成し遂げるのに時間がかかる芸術家アーティストとパトロンの歪んだ・捻れた関係性(ドラッグ、性 etc.)など、鉄鋼のように社会の根幹から化けの皮を剥ぐ。若干36歳のブラディ・コーベット監督がここまで大胆に挑戦的・野心的かつ実験的な大作を生み出した意義。
勝手に関連作品『アンドレイ・ルブリョフ』『サウルの息子』『アラビアのロレンス』『ラスト・エンペラー』『オッペンハイマー』『戦場のピアニスト』『マエストロ』
P.S. 主人公が妻を想ってか性的に不能なのか判断しかねたけど、やはりそういうことなのだろうか?
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ウェス・アンダーソン組からジャンル映画まで信頼に足るメソッド俳優エイドリアン・ブロディが名作『戦場のピアニスト』以来、再びホロコーストから生き延びた人物を演じる注目の本作はぜひとも観たい作品。また、同じく伝記映画『博士と彼女のセオリー』でも妻役を演じ『ビリーブ』では女性解放と性差別撤廃に闘っていたフェリシティ・ジョーンズに、『ハート・ロッカー』など大作映画以外を主戦場に独自のキャリアを築いてきたガイ・ピアースと共演も気になゆ。最初は文字通りの残忍主義者ということかと思ったくらい建築のことは詳しくないけど、ブルータリズム建築という興味を惹かれるタイトル。弱冠36歳の脚本監督が放つ本作は、尺の長さ含め例えば現代の『アンドレイ・ルブリョフ』になるのではないかと期待。ゴールデン・グローブ賞より前から観たくてClipしていた本作、特報を見ていても引き込まれた。今年の『オッペンハイマー』になるか?
緊張感あって長さは感じなかった
前半、後半それぞれ100分でインターミッションが15分
序盤はフィルム写真のようなショットに叙情的な音楽、エイドリアン・ブロディの豊かな表情で心を掴まれた
後半はフェリシティ・ジョーンズが熱演
全体的に緊張感ある展開で長さは感じなかったし、もうちょっと先も観たかった
芸術家の美への執念が感じられた
欲をいえば最後の音楽が・・・
表現するのが難しい感情が湧き上がった
覚悟してご覧ください
アカデミー賞候補の作品なのに、バンクーバーで一軒しか上映してないのはなんでだろうと思って上映時間をチェックしたら昼の回を逃して夕方6時45分…。次から7時の回一回だけだから、観ておくかと思ったら…。
えー、上映時間3時間半!予告、インターミッションを入れたら終わったのが10時40分、家に着いたのが11時半www
正直、そこまで好みの作品でもなく、そのシーン要る?て思う冗長な展開だし、途中キレ散らかす主人公にもそこまで思い入れが持てず…。作品賞候補の割に、これも18禁かぁ。エロシーンがない方がスッキリ見れた気がするのですが。
海外に住むと、イヤでも移民の心境に敏感になるので、ユダヤ人としての苦悩も描かれてましたが、全体的には誇り高き、成功した建築家として映ったので、そこまで思いが深まらないまま、あっさり終わってしまいました。
英語で苦労してる私とは違って、古くはスピルバーグ監督やマイケルブルームバーグ、若手ではマークザッカーバーグなど、アメリカ移民で最も成功しているのはユダヤ人だという事実を鑑みると、観る前からネタバレ感が拭えずで。
ちなみにブルータリズム建築とは、「文化的要素が低く、無骨な意匠を建物の外観に多用した建築様式で、建築資材の質感が強調され、塗装や化粧板は使わず、荒々しさを残した打ちっぱなしコンクリートなどを用いた彫塑的な表現を特徴とする」と、Wikipediaにありました。正直、寒々しい建物だなぁと思ってしまいましたが、日本でもバブルの時にコンクリート打ちっぱなしのマンションがはやりませんでしたっけ?住み心地はどうだったんでしょうwww
IMDb の評価は8.1/10、評論家のメタスコアは89/100と絶賛されていて、おそらくアカデミー作品賞あたり取りそうです。別の候補になっている「アノーラ」よりはマシかな…という程度で、正直「オッペンハイマー」のような壮大さは感じられなかったです。ただ、カナダの観客はちょいちょい笑いが起きましたw
19日日曜日のノミネート発表を、楽しみに待ちたいと思います。
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