「タイトルなし(ネタバレ)」ブルータリスト りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
第二次大戦のホロコーストを生き延びたハンガリー系ユダヤ人建築家ラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)。
強制移住の新天地・米国の新しい暮らしは、ペンシルベニアで家具屋を営む従兄弟のもと。
妻をめとった従兄弟はカトリックに改宗し、名前も米国風に改めていた。
ある時、新進の実業家ヴァン・ビューレン(ガイ・ピアース)の息子から邸宅の書斎の改修を依頼されるも、無断改修に激怒したヴァン・ビューレンから追い出されてしまう。
が、改修した書斎のモダニズムが雑誌に取り上げられたことに気をよくしたハリソンは、ラースローが欧州で著名な建築家だったことを知り、亡き母の名を冠したコミュニティセンターの建築をラースローに依頼する・・・
といった物語で、以降、ラースローとヴァン・ビューレンの確執が描かれていきます。
下手に時間軸操作などせずに、持つ者と持ったざる者の確執が丹念にかつ執拗に描かれ、説明不足の部分(こちらが理解できないだけかも)があり、やや理解が難しいところもあるが、濃厚なドラマを観た満足感がありました。
ということで感想は十分。
さて問題なのはタイトルの「ブルータリスト」が誰を指しているか。
ブルータリズムと呼ばれる建築の設計者である主人公ラースローを指しているというのが一般的な解だろうが、「ブルータル」=「暴力的」「野蛮で」「荒々しく」「粗暴な」というもともとの意味から察すると、他者を蹂躙する人=ヴァン・ビューレンに代表される側ではないかと思われます。
ヴァン・ビューレンに代表される側は、キリスト教側。
物語ではラースローの改宗した従兄弟が登場しますが、映像的には十字架が印象的に使われています。
巻頭のラースローの姪ジョーフィア(ラフィー・キャシディ)の背後に重なる窓枠の十字架のモチーフ。
終盤に登場するラースローが設計したコミュニティセンターの礼拝堂に差す光の十字架。
なお、このセンターの設計そのものが、ナチスにおけるユダヤ人収容所を模していると語られるエピローグには驚かされます。
(中盤、妻エルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)が図面を見て、モチーフを読み取り、設計に納得するエピソードが伏線として描かれていますね)
礼拝堂の十字架については、前半終了の際、模型に懐中電灯で光の十字架を示すシーン、ここは模型の光の十字架は必要だった、と思いました。
模型の中の光の十字架が、現実になって、さらに救われない・・・という意味で。
喧伝されている、「野心的なカメラワーク」については、あまり感じませんでした。
センシティブなシーンや序盤の40年代米国などセット組むのに予算がかかりそうなシーンで「極力写さないように工夫してるなぁ」とは思いましたが。
もしかすると、主人公のラースローは収容所で去勢されているのかも・・・。
ならば、センシティブシーンを極力写さないカメラワークも意味があるように感じます。
音楽は、ややうるさく感じました。
とはいえ、弩級の力作。