「【スペインの名匠ペドロ・アルモドバル監督が老境に至り、或る戦場ジャーナリストの女性の死生観を、愛と尊厳を込めて、洗練された美しき色彩で彼女の衣装、意匠と取り巻く風景を描いた趣高き作品。】」ザ・ルーム・ネクスト・ドア NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【スペインの名匠ペドロ・アルモドバル監督が老境に至り、或る戦場ジャーナリストの女性の死生観を、愛と尊厳を込めて、洗練された美しき色彩で彼女の衣装、意匠と取り巻く風景を描いた趣高き作品。】
■子宮癌に侵されたマーサ(ティルダ・スウィントン)は、彼女の病を知ったかつての親友・イングリッド(ジュリアン・ムーア)と再会し、病室で語らう日々を送っていた。
癌治療を拒み自らの意志で安楽死を望むマーサは、人の気配を感じながら最期を迎えたいと願い、“その日”を自ら決断した時に隣の部屋にいてほしいとイングリッドに頼む。
イングリッドは、少し考えた後にその申し出を受けるのである。
◆感想
・ご存じの通り、今作はスペインの名匠、ペドロ・アルモドバル監督が初めて長編英語映画に挑戦し、第81回ベネチア国際映画祭の最高賞、金獅子賞を獲得したヒューマン・ドラマである。
・まず、思うのは”安楽死”と言う重いテーマを扱いながら、物語の流れが軽やかで色彩が美しいという事である。
物語の流れは、マーサが戦場カメラマンとして生きて来た人生を、病床でイングリッドに語り、実際にその映像が映される構成になっている。
そこでは、恋人だったフレッドが戦地に出掛けPTSDになり戻り、彼の子を宿しながらフレッドが無人の家の火災の中、人を助けるために死ぬシーンなどが描かれる。
・又、マーサが父の名を明かさなかった事から、疎遠になった娘ミシェルとの関係も語られる。
・イングリッドはマーサの願いを聞き入れ、場合によっては自殺幇助罪に問われかねないのが分かって居ながら、マーサの願いを聞き入れるが、彼女も又それに対する葛藤を抱えており、且つてはマーサの恋人であり、今は自分のパートナーであるデイミアン(ジョン・タートゥーロ)にその事を、マーサには内緒で相談しているのである。
だが、その描き方は重くはなく、逆にどこかユーモラスに描いているのである。
・更には、ペドロ・アルモドバル監督が描出したマーサの最期の日々の彼女の色彩豊かな衣装や、一カ月借りた瀟洒な住宅の中の家具や美術品の数々から、監督の”人生の最期は、華やかに自分の意志で終えるべきである。”というメッセージが伝わって来るようである。
・マーサが、イングリッドが居ない時に、瀟洒な住宅のテラスのリクライニングチェアーで、紅い紅を唇に塗り、黄色い衣装で眠るように息絶えている姿も、監督のメッセージであると思う。
彼女の死を知りやって来た娘ミシェルを演じたティルダ・スウィントンの姿には驚く。非常に似た女優さんだな、と最初思った程に、若々しいのである。
そして、ミシェルはイングリッドと、マーサが死を選んだリクライニングチェアーに並んで寝そべると、空からは雪が舞って来るのである。
趣高き美しき、ラストシーだと思う。
<今作は、名匠ペドロ・アルモドバル監督が、或る女性戦場ジャーナリストの女性の死生観を愛と尊厳を込めて、美しき色彩で描いた作品なのである。>