「ディアボロ・マント(悪魔のミント)思春期の娘が飲んでみたい大人向けの飲み物」ペパーミントソーダ 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
ディアボロ・マント(悪魔のミント)思春期の娘が飲んでみたい大人向けの飲み物
1963年9月新学期の日から、翌年のバカンスに出かけるまでの1年間、パリ9区にあるジュール・フェリー校という7年制の中・高一貫名門女学校に通う15歳と13歳の姉妹を描いた青春映画。
この映画を撮った時、女性監督のキュリスは28歳だったが、15年前の想い出というから、妹のアンヌの眼からみた情景をスケッチのように描いたのだろう。
一番目立つこと、フランスの社会には「うそ」がない。学校の先生たちには、子供に対する理解はない。だけど、歴史の先生は、生徒たちが誰も歴史の国民公会に興味がないと知ると、歴史は政治と深く関係すると言って、授業中なのに、パスカルという生徒の証言を引き出す。メトロのシャロンヌ駅で、極右の行為に抗議した民衆のデモが警察によって鎮圧されて、犠牲者が出た。転校生に旧植民地であるアルジェリア出身の子がいたり、校門の外で、反共産、反ユダヤの男子学生が騒いだりする。外界からの政治的な刺激が強くなってきていた。一方、姉妹は家の中では離婚したシングルマザーと暮らしているが、母親には愛人がいて、よくお泊まりに出かけ、それを隠すこともしない。
学校も家庭も、ある程度、子供たちに寛容で、外界と接することを許し、徹底的に追い詰めることはしない。アンヌは姉のフレデリックに比べて、出来が悪いようで、課題が出ると、昔の姉の宿題を探し出してきて丸写しで提出するが、教師はスペルミスまで同じだと言って、笑って零点をつける。アンヌは、卸で流行のワンピースを安く分けてもらい、調子に乗ったのか、うっかり万引きをしてしまう。母親は嘆き悲しむが、かと言って、何をするわけでもない。
でも、このわずか5年後のパリでは、学生の不満に端を発した5月危機(5月革命)が起こる。その気配はこの映画にもある。フレデリックの親友ミュリエルが家出して、一悶着起きる。例によって、アンヌがいたずらを仕掛けるが、特にはお咎めなし。周囲は、行為そのものよりも、なぜ、そういう行為に走るのか、考えてくれている。ところが、ボーイフレンドと農場で暮らしていたミュリエルは学校に戻ってくるなり、これ以上ない汚い言葉で「メルド(くそったれ)」と大声で叫び、学校を後にする。いくら美術学校に行きたいにせよ、自分の言いたいことを、はっきり口にする生徒が出てきている。
姉のフレデリックは、母親からボーイフレンドと二人だけで10日間もキャンプに行くことが許されている一方、13歳のアンヌは、きちんとした知識もないまま、休み時間の校庭では、生徒たちとのたわいないセックス談義。そうなのだ。身体は美しく成長し輝くばかりだが、その内面は背伸びするばかりで、全く追いついていない。それを象徴しているのが、ディアボロ・マントというわけ。
それじゃあ、この5年後、何がこの子達を、5月危機に結びつけたのだろう。実際、キュリスも学生運動に走ったようだ。間違いなく、音楽も一因だったのだろう。確かに、シルヴィー・ヴァルタンの「アイドルをさがせ」や、日本でも大ヒットしたアダモの「雪が降る」が出てきた。その頃のアイドルであるクリフ・リチャードとシャドウズが大事なのだ。彼らこそ、その後のビートルズ革命の先触れだった。ビートルズと共に5月革命を支えたのが、ローリングストーンズであり、米国ではウッドストックの主流となっていたフォークとロック。私は、今でも凱旋門の上で、学生が大きな赤旗を振っていた5月革命の姿を忘れることはできない。