「久々に見たやばい映画、控えめに言って2024年度No1、マニアが最後に見ておくべき映画。」草原の英雄ジャロロフ 東京への道 ウズリマクリスティさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0久々に見たやばい映画、控えめに言って2024年度No1、マニアが最後に見ておくべき映画。

2024年11月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

幸せ

実は、最近ウズベキスタンに旅をしていたことからふとしたきっかけで見ることになったこの映画だけれど、控えめに言ってかなりキてるなぁと、物語中盤、いや、最初の2-3割位の時点で感じる映画だった。
主人公ジャロロフの出身であるブハラと到着地である東京の2舞台だけではなく決勝戦で当たる相手、現NABFヘビー級ジュニア王座のリチャード・トーレス(イケメン)の出身であるアメリカ、そして地政学的にも関わりの深いモンゴルとロシア(NetflixのVivantみた人なら分かるはず)という、シルクロードの中継地たるウズベキスタンならではのスケール感を感じられる点も脳の回転速度を要求するが、更に私の想定を覆すポイントとして、ポスターや予告編だけ見た人にロッキーのようなスポーツ映画を想像させておきながら、内容は圧倒的にホームドラマであるところ。マイケルジャクソンならぬ姚明ならぬ、スポーツドリームを見せられると思っていた右脳をハンマーで叩き割られた気分になる。
そして、劇中において次々と金に翻弄されている登場人物達。暗躍する悪役だけでなく、無二の親友も兄弟と言える仲間達もが圧倒的な速さで次々に懐柔されて言うあたりはまさに必見と言わざるを得ない、欲望丸出し100%中の100%。ハッピーエンドは映画の中だけで、現実ってこういうもんだよね、というリアルを突きつけられすぎて映画の6割くらい見たところで残った左脳が悲鳴を上げ始める。あまりに揺さぶられ続ける脳への衝撃にもうこれはノックダウンか、と思ったところに間髪あけずに主人公の父親が良いシーンを入れる「敗者とは倒れてしまった物ではない、最後まで映画を直視できなかったものだ」とモーガンフリーマンが出てきたのかと思った、癒される。
あまり書きすぎると見る楽しみが薄れてしまうのでこれくらいにするが、映画本編とは別に面白かった画角として、アメリカ、日本、ロシア、モンゴル、という関連国家を、各国のハブとして遠くから見ているウズベキスタンという国がそれぞれの国にどのようなイメージを持っていて、どのような感情を抱いているのか、そしてそれはどのような行動に繋がっていくのか、という面が割とリアルにシミュレートされていたように感じる。おそらくこれは本編と関係がなかったが為に純粋な一面が出てきていたのではないかなと思う。

そういえば、私がウズベキスタンにいた時、現地と東京の二つの場所で育ったウズベキスタン人の友人から、「ウズベクには二つの顔がある。ガイドブックに載っているような場所や外国人が住んでいるような場所で見せる顔と、現地の者以外の人間の前では決して表には出てこない裏の顔だ。それは江戸時代の日本人で言う”羽織の裏側”のような意味合いがある。」という話を聞いたことがある。
今回の映画では、その”裏側”が、少しだけ顔をのぞかせたような気がした。

最後に一つだけ、苦言を弄するが
主人公の名前はバホディル・ジャロロフなのだが、バホディルと呼ばれたりジャロロフと呼ばれたりするのがとても紛らわしい。生まれた頃から青年期、そしてリングに立つ時で見た目も変わり、かつ実写版のジャロロフも混ざってくるのである程度集中して鑑賞しないと脳髄が破壊されるので、覚悟しておいて欲しい。

ウズリマクリスティ