「彼は「地下世界のダンディ」」ロングレッグス ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
彼は「地下世界のダンディ」
「シリアルキラー」×「(女性の)FBI捜査官」とくれば、
誰もが想起する〔羊たちの沈黙〕。
{サイコ・スリラー}であり、
{ミステリー}や{ホラー}でないのがミソ。
本作は事前の煽りで
「(同作以来)最高の連続殺人鬼映画」とされていたことに期待し
劇場へと足を運んだわけだが、
{オカルト}や{ホラー}の要素が色濃く
事前期待をあっさりと裏切ってくれる。
1970年代半ばに始まった連続殺人は
二十年を経て両手の数を超える家族が惨殺されても未解決。
犯人は中年の白人男性とのプロファイリングはあり、
幾つかの手がかりは残され、事件には共通項があるものの。
新たに捜査陣に編入された『リー・ハーカー(マイカ・モンロー)』は
新人ながら超常的な能力を持つよう
(ここら辺から物語りのトーンが変わり、
{オカルト}のテイストが色濃くなる)。
『リー』は持ち前の能力を早速発揮、
過去には気づかれなかった点を早々に指摘するにとどまらず、
犯人が現場に残した暗号文もあっさりと解読する。
これを代表例に、全体として謎解きの要素はほぼ無く、
過程を見るカタルシスは得られない。
終幕に向け{オカルト}要素は更に強めに。
〔オーメン(1976年)〕や
〔エンゼル・ハート(1987年)〕を想起するのだが
ここでの語り口はより直截的。
先作の劣化版にも見え、
ましてや『ルイ・サイファー』との名前に込められた意味を解くような
知的楽しみも無い。
加えて「ヨハネの黙示録」の一節が繰り返し引用されるように、
聖書由来の畏怖は、日本人にはピンと来ない側面もあり。
伏線らしきものは張られ、
最後は全てが回収されたようにも見える。
それなりの理由付けはなされている、と。
とは言え、始まりの事件の不可解さと、
全てを超常的な力に寄せる脚本には疑問が残る。
「連続殺人鬼」ではなく
単に「サタニスト」の映画に変容させている。
手柄を一つ挙げるとすれば、
楽曲に使われた「T.レックス」か。
『マーク・ボラン』は三十歳の誕生日の二週間前に
自動車事故で死去。
予てから自身が三十歳までは生きられないと恐れ、
オカルトに傾倒していたと言う。
「シリアルキラー」を怪演した『ニコラス・ケイジ』は
過去に「アカデミー主演男優賞」受賞も
〔アダプテーション(2020年)〕でのノミネート以降は
毎年のように「ゴールデンラズベリー賞」に名が挙がる。
どうした出演作の選択基準なのかと訝ってしまうが、
制作も兼ねた本作でもそれは変わらず。