「犬と人々の出会いと感動を謳ってるけど、人々に振り回された多聞が何だか可哀想」少年と犬 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
犬と人々の出会いと感動を謳ってるけど、人々に振り回された多聞が何だか可哀想
お涙頂戴邦画の十八番、ワンちゃん映画。
今作でも、震災直後の日本各地を舞台に、震災で飼い主を失った一匹の犬と事情を抱える人々の出会いと別れの物語が紡がれる。
仙台。震災で職を失った青年・和正は一匹の犬と出会う。GPS機能で名は多聞、岩手から来た事を知る。多聞はいつも南を向いていた…。
多聞の存在は家族の癒しになるが、金を稼ぐ為に和正は窃盗団の運転手の仕事を請け負う。一回一回いい稼ぎになるが、悪事は長続きせず。仕事でトラブル、それが原因で家族から見離され、多聞も何処かへ…。和正は多聞を探す。
滋賀。森の中で何かを埋めていた若い女性・美羽は一匹の犬と出会う。レオと名付け、その写真をインスタグラムに上げたり。
それを見てやって来たのはが、和正。あの多聞で間違いない。一時の飼い主で家族にとって必要と言う和正に対し、美羽もレオ(つまり多聞)を手離そうとしない。今の美羽にとって唯一の癒しの存在になっていた。
金に困っている恋人の為にデリヘル嬢になった美羽。家族からは縁切り状態。
恋人が浮気。その現場を目撃。自分はただの金づるでしかなかった。
ショックけら衝動的に恋人を殺してしまう。森の中に埋めていた時、レオと出会った。
逃げ切れぬ事を悟った美羽は和正とレオを連れ、西へ。行ける所まで。
レオはいつも西を見ていた。行って、レオ!
その先は和正に託して。しかし、和正の身に…。
東北から近畿へ。一匹の犬の旅。
その都度その都度である方向を向く。何処を目指しているのか…?
お涙頂戴ワンちゃん映画定番の子犬ではなくシェパードだが、賢さと凛々しさ溢れる。名演は勿論。
高橋文哉と西野七瀬も好演するが、一応原作小説通りらしいが、窃盗団やらデリヘルやら殺人やらファミリー向けにはちょっと…。『ハウ』もそんな要素あり、『ハチ公物語』や『マリと子犬の物語』のような健全なワンちゃん映画を見たい人には違和感あり。
多聞が目指していたのは熊本。一人の少年の元へ。それは再会であった。
まだ岩手に住んでいた頃に出会った多聞と光。多聞には飼い主がいたが、すっかり仲良しに。祖母と公園に散歩に行き多聞と遊ぶのが光の楽しみだった。
そんな日々が失われた。多聞の飼い主と光の祖母は津波の犠牲に…。
光の両親は光を連れ、妻の実家の熊本へ。津波で海を怖がり、声すら出せなくなってしまった光。
そんな光が心配の両親。
ある日、光の元へ、多聞がやって来た。いや、光の元へ帰ってきたと言っていい。
また明るさを取り戻した光。
多聞がどんな旅をしたのか、SNSを通じて情報を募る光の父・徹。
岩手~仙台~滋賀~熊本…。情報が募る。
出所した美羽もSNSを通じてコメントをする。
多聞が会いたかった人に会えた事を安堵する美羽だが、その過程で和正に起きた不幸を知る…。
また、多聞と光にも別れが…。一時のではなく…。2016年、熊本を…。
潰れた家の中で光を庇って多聞は…。
感動的ではあるが、何だか多聞が可哀想でならない。
和正の人生を変え、美羽の人生も変え、その他多くの人と出会い、最愛の光と出会い…。多くの人の元に舞い降りた“守護天使”と形容されるが、時々時々人の都合に振り回された感も…。
2度の震災もその出汁に感じる。
しっくり来ない点も多々。
ステレオタイプな外国人役の嵐莉菜、ステレオタイプなチンピラの一ノ瀬ワタル。キャスティング・ディレクターが下手。
熊本地震が起きた時、光の両親はさっさと外へ。普通はまず幼い息子の部屋へ行くだろ!
これを言っちゃあおしまいだが、飼い主ならともかく、何故多聞は光にそんな絆を…? “運命的な出会い”と誤魔化しているけど。
最たるは、クライマックス突然のファンタジー!
不慮の交通事故で死んだ和正。その後幽霊体となって多聞の旅に付き添う。
美羽との約束を守ってとの事だろうが、幽霊体で美羽との再会まで。
多聞に護られた和正が、今度は和正が多聞の守護天使となって光との再会を見守る…という事なのかな…?
これは原作通りなのかな…?
悪くはなかったけど、かと言って特別いいというものでもなく…。
過剰描写や要素、シュールなファンタジー展開がちと違和感。
個人的には守護天使どころか名犬にもなれず。
