劇場公開日 2025年2月7日

「聖書から量子のもつれまで」野生の島のロズ 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0聖書から量子のもつれまで

2025年2月14日
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【聖書から量子のもつれまで】

表面上のアニメーションやファンタジーの要素を超えて、
深層的なテーマを織り交ぜながら、
親子愛という普遍的なテーマを感動的に描き切る作品だ。

聖書的な思想から量子論に至るまで、
多彩な要素を取り込みながらも、
最終的にひとつの明確なメッセージ「愛の力」に行き着く。

ロズが自らのプログラムを無効化し、
子育てという「タスク」を続ける決断は、
単なる人工知能の倫理的な問題を超えて、
人間らしさ、
そして母性本能に迫る深い問いを投げかける。

プログラムという冷徹な論理を超えて、
ロズが選ぶのは「LOVE」という感情。

これはただのエンターテインメントの枠にとどまらず、

感情と理性、論理と愛が交錯するその瞬間こそが、
この物語の真髄である。

本作には、量子論を題材にした不可思議なシンクロニシティのテーマが暗喩的に随所に登場し、これが物語の大きな一つの軸となる。

一般的に昔から言われていた、群れをなして飛ぶ雁が象徴的だ。

彼らの方向転換がまるでシンクロしているように見えるのは、
果たして「あり得ないシンクロ」なのか?

いや、それが可能だとするならば、
それを動かすのは「LOVE」の力ではないかという、
ノーベル賞を受賞した〈量子のもつれ論〉との微妙な関連が浮かび上がる。

だが、この映画の本質的な魅力は、
難解な理論をあえて説教じみたものにせず、
巧みにエンターテインメントとして昇華させている点にある。

ストーリーの進行とともに、
観客に深い感情的な余韻を残しつつ、
普遍的なテーマを堅実に探求する。

感情のシンクロ、論理を超えた「愛」の存在は、
非常に強力なメッセージとして観る者の心に残る。

また、映画のビジュアルでも特筆すべきものがある。

背景が印象派の絵画のように描かれ、
細部にわたって手描きの質感が感じられる一方で、
キャラクターたちはCGで表現されている。

この対比が、ジブリやピクサーへのオマージュであると同時に、
(トム&ジェリーでも、トムが餌のヒナを育ててるうちに親として覚醒する回があった)

視覚的にも非常に斬新であり、観る者に新しい体験を提供している。

一方、ストレンジャーがコミュニティの生態系を救うという、
いわば「方舟的展開」もあり、
物語全体がスケール感を持ちながら、
他の動物たちにも、しっかりと尺が与えられているため、
物語に対する没入感は失われない。

特に、ロズとキラリの関係に焦点を当てる時間の使い方が見事で、
感情の繊細な動きを追いながらも、
子どもも含めた観客を飽きさせることなく物語に引き込む。

難点を挙げるなら、多くのテーマが同時に展開されるため、
少し過剰に感じられるかもしれない。

しかし、その「盛りだくさん」な内容が、
観客に対して新しい視点を提供し、
ヒックとドラゴン、リロ、スティッチと類似点はあるが、
様々な解釈を生み出すことを考えると、

これはむしろ意図的な作劇の一環であり、
映画の奥行きを増すには重要な要素であると言える。

まとめると、本作は、愛と論理、技術と芸術が見事に融合した作品であり、その感動的な結末に至るまで、
理論と感情、知性と本能が交錯する世界を描きながらも、

その最終的なメッセージ「愛の力」がきちんと昇華されている点で、
映画としての完成度は非常に高い。

蛇足軒妖瀬布