「中年男性号泣作」野生の島のロズ movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
中年男性号泣作
中年男性(家族)、途中から号泣しっぱなし。
全米が泣くより確かな指標になりそうだ。
IMAXだとロズを回収しに来る飛行機の到着轟音が心臓に振動として響き渡り、自分も回収されるかのような体験をした。身体的にも体験がある作品。シン・ゴジラでもそれはなかった。
まず思う事は、人間が考えそうな話だなということ。
善悪が人間よがりな脚本。でも、考えさせられた。
キツネのチャッカリの生い立ちが、語られなくても辛くて寂しかった。食べ損ねたガンを、突然現れたロボットが育児する流れに協力することになり、自身も生きがいを得ていくが、やっと大切な存在ができたとロズを思えど、ロズはプログラムがメインで動いているだけだし、その眼中や心は息子のキラリが占めているとはっきりとわかる。
それでも、キラリとロズの渡り後、チャッカリは山の動物たちに創作話を聞かせてあげている。
あぁ、心を守るために空想として使ってきたであろう想像力を、他者の未来のために働かせている。想像力はコミュニケーションにも夢の源にもなるからもうこのキツネは大丈夫だろう。そう感じさせてくれる。
でも、エンドロール後ウサギに石を投げるキツネ。
映画館でどこかの小さい子が「また争ってるー」と一言発していた。
人間含めて弱肉強食なこの世界、なんでしょうね。
キラリに関しては、産まれたての鳥ってもっとぶつぶつ鶏皮のひよひよじいさんみたいな感じなので、そこをスキップしてめちゃくちゃ可愛く産まれてる!がまず感想。鳥の種類としてはガンらしい。確かに、椋鳩十でも新美南吉でもガンは鉄砲やキツネに狙われていた集団鳥だが、そうか渡り鳥なのね。食べる泳ぐ飛ぶができないと人生終了な鳥。
鉄の巨体仕事ロボット、ロズがクマに追われて転がり落ちて来て、他の家族はロズに吹っ飛ばされたか踏み潰されたから、いない。輸送中に嵐で山に漂着したロズはプログラム通り仕事をくれるご主人様を探すが、8匹の子持ちオポッサムに、ガンを育てるのが仕事だよと言われて、ガンを育てるお仕事モードに入る。
ロボットに育てられキツネと一緒にいるガン、キラリは、身体が小さく翼が小さく、本当は親兄弟が生きていたとしても餌を充分に貰えずに亡くなっていたかもしれない命。お母さんではなく母性も感情もあるか怪しいが、身を守ってくれるし餌も効率的に準備できる、ロボットのロズがいて、良かったのか悪かったのか?
渡り鳥なので、群れが渡る日までに充分に飛べる力がないといけないが、飛び方は教えられないロズがミミヅクのサンダーボルト先生に特訓をお願いして、なんとか飛べる日までに力をつけた。
反抗期でも、ロズに対しては大切なママだと本当は思っていたことを、戻ってから伝えたいと密かに感謝しながら、立派な青年として自立するキラリ。
サンダーボルト先生と飛行訓練を1日中繰り返して、クィディッチのように猛スピードで輪くぐりや急上昇急降下急旋回などまでできるようになり、とんでもない量のガンの群れ(この地域糞害すごいだろうな)の一員として飛び立つ場面は圧巻の迫力と止まらない涙を誘う時間だった。
特に、ロズへの反抗期=つまりは自立準備期と重なるので、訓練期間はベストなタイミングなわけだが、奇特な生い立ちや群れに馴染めない孤独や様々な苦悩を抱えながらキラリが必死に飛ぶ努力を重ねて心に打ち勝つ自信をつけていくシーンは、涙腺の泉のスイッチをこれでもかと押してきて、親心が噴水のように溢れ出る。
我が子を応援するばかりでなく、いつか自分も子を渡らせるんだという想像、どんなに大切に育ててもいつか子は育って巣立つし、渡るほど遠くへ飛んでいかれる子に育て上げて見送るのが、お互いのためであるんだ、でもそれには思っているよりずっと時間は少ないんだ、そんなことを悟らせる親への教育タイム。
ただ私はひとつ物申したい。群れのために囮になり命をかけてキラリ率いる群れを守ってくれたクビナガ。「君たちのことはずっと見ていた。この子は良いものを持ってるだろうね。ガンはくだらない噂好きじゃ。よければ私の群れに加わらないか?」じゃないんだわ。
ロズとキラリが馴染めていないのはかなり前から、というか産まれたてから。知っていたなら、リーダーとしてもっと早くに介入してキラリが馴染めるように泳ぎや飛び方を教えてあげて下さい。そういうあなたもガンなのね、と言いたくなった。ガンのイメージダウン作品。
しかも、群れはよりによって、クビナガの指示のもと、お仕事ロボット本社の育成空間に降り立つ。ママもどきだらけで混乱するキラリ、ママーとか言いに行き、畑にガンは害鳥でしかないので一斉にガンの群れごと危険に晒す。
突然群れのリーダーをクビナガに任命されて、攻撃をかわしながらなんとか、空軍さながらの飛行ルートで安全な空間に出るが、サンダーボルト先生の訓練を受けていないその他のガン達のうち、一羽以上きっと犠牲になっているだろう。
キラリの渡り後、山は大寒波に見舞われる。
ほっておけば山の動物たち全員全滅していただろうという「想定」。キツネはほっとけと言うが、ロズは今までキラリとキツネと住むために作った丸太小屋に、山の動物たち全員、捕食者巨大クマも合わせて、連れてくる。なにこの展開、丸太小屋に全員収まったんだとしたら、小屋の体積は明らかに元より拡張されているし、各種が群れでとんでもない量いることを忘れていないか?捕食者はクマだけの山?案の定小屋の中では争いが始まるが、もうそういう生き物だから。ロズは動物達の言語をプログラムに盛り込み習得済だが、言葉で伝えれば弱肉強食の習性をやめられる生き物は、動物とは言わないんだわ。冬眠してただけのクマまで叩き起こすし意味不明。作品上、ここで皆が冬越しし春を迎えられたことが、ロズの存在意義になるわけだが、かなり制作者都合の展開。
更には任務を終えたロズがついに工場に回収されるスイッチを押すが、本社ではロズが野生に混じり共生したデータを欲しいためロズからはこれまでの記憶が抜かれるとわかる。キラリを忘れたくなくて回収を妨げるロズ。なんなんだ、おかげで守りに来てくれた動物達は攻撃ロボット達のせいで山火事に見舞われて生息空間を奪われた。結局再度回収を呼び、工場に帰るなら(キラリとは再会できたけど)、1度目で帰ってくれと思わされた。ロズのキラリへの感情もプログラムとは別のところ(心と言いたいのだろう)に覚えていられるそうだが、それってキャッシュメモリか何か?よくわからない理論だが工場に戻った後もキラリは訪ねてくるし、リセットされてお仕事ロボットとして生きているロズがきらりの個体判別をできているようだ。
なら尚更、1度目の回収ですんなり帰ってくれて良かった。キラリも、ロズには二度と会えないつもりで渡っていたのに。
ロズとキラリの親子愛のために危険に晒される存在がありすぎて、正直ロズさえ来なければと思ってしまう。
ロズのおかげで、キツネは愛を知り、キラリは生存でき、動物達は冬越しできたが、それってかなり自然には反している。
人が自然に手を加えることは、良いのか必要悪なのか?人により意見が割れるだろうが、人間ならよく考えてみて欲しい問いかけをくれる作品。
ありえないけど捕食本能に逆らって、
別の種の生存を助けてくれた、理性が勝つキャラ、
ミミヅクのサンダーボルト先生と、
キツネのチャッカリ、
ビーバーのパドラーに大きな拍手を!!
と思う時点で私も人間寄りの思考なのだろう。。
上映が終わり、家族が涙でぐしょぐしょのハンカチを片手に持つ横で、私の第一声は、「福くんって声変わりしてないんだっけ?」だった。キラリに泣かされた後に。恐るべし人間。