「民間信仰も歴史認識も国それぞれ」破墓 パミョ TRINITY:The Righthanded DeVilさんの映画レビュー(感想・評価)
民間信仰も歴史認識も国それぞれ
韓国で大ヒットしたスリラー映画。
近い国でも宗教事情は違って当然だし、そこに迷信が絡むとなおさらのこと。
物語終盤で魔除けのために全身に経文を書き込む場面は、『耳なし芳一』で馴染みのある日本人には違和感ないが、中国と韓国との間でこの魔除けの手段を巡ってSNS上で論争になったとか。
社会主義国なんだから、難癖つけるなら「霊魂なんか信じてるのか」と言えばよさそうなものだが、いずれにせよ画一化できないデリケートなテーマ。自国との相違を揶揄してはいけない。
朝鮮王朝(李氏朝鮮)以来、仏教より儒教を伝統的に重んじてきた影響が色濃く残る韓国。
儒教は基本的には霊魂否定的の筈なのに(『論語』にも「鬼神は敬してこれを遠ざく」や「怪力乱神を用いず」などの文言ではっきり示されている)、シャーマニズムの因習が現代もなお深く根付いている。
一方、北方騎馬民族からの侵略への警戒心が影響しているともいわれる風水の思想。
そんな心配の必要ない日本には平安期以前に学問として摂取され、独自の陰陽道が形成されている。
日本では鬼門ですら、最近は気にする人が減りつつある。改葬を巡って葬儀業者や霊媒師が絡むモチーフなんて、故・伊丹十三監督なら違う視点で映画にしそうなテーマだが、この辺のお国柄の差をある程度は理解してから観た方がいいかも。
作品の筋書きは簡単にいうと二段構えのストーリー。
前半は富豪パク・ジヨンから以来を受けたファリムと弟子ボンギルの若い巫堂(霊媒師)がベテランの地師(風水師)サンドクと葬儀師ヨングンを仲間に引き入れ、いわくありげな改葬に挑む話。
後半は改葬した墓が重葬だと判明し、そこから蘇った邪悪な鬼と巫堂たちが対峙するストーリーへと転換するので、もっと単純化して説明すると、前半はサスペンス・ホラーで後半はモンスターパニック。
作品の前後半とも、日韓の歴史が重要なモチーフとしてプロットに関わってくる。
改葬される依頼者の祖父が日本占領下での「親日(売国奴)」で、その下に戦国時代の日本の武将が重葬されたことは豊臣秀吉による朝鮮出兵という、忌まわしい過去も想起させる。
真偽は別として、いわゆる「日帝風水謀略説」は、無念を抱いて関ヶ原で斬首された武将の骸が明治になって韓国に縦向きに改葬された経緯を理解するためにも必要な知識だが、個人的には映画を観るまで知らなかった話。
両国間の負の歴史を扱っているので、日本での賛否が別れる作品と思うが、隣国との関係を損なった要因を認識するためには観ておくべき作品ともいえる。
それだけに、センシティブな題材を扱いながら、武家政権下での将軍の位置付けや神仏分離以降の僧侶の正体が陰陽師など日本側の歴史検証に甘さが散見できるのが残念。
映画の感想としては、前半の祖父の改葬にまつわる部分はなかなかの出来だと思う。
祖父の霊を直接見せずにガラスに映り込ませ、恐怖を募らせる手法は定番とはいえ効果的。断末魔の叫びを発した蛇が一瞬人頭に変化する手法も秀逸。
一方で、子孫を道連れにするほどの祖父の怨念の理由が明快でないのは大きな不満。
日本語に日本語の字幕が出るのもヘンだが、どうせ意味の分からない経文(呪文?)の字幕も、映像に集中するためには余計だったと思う。
そのくせ、鬼と化した武将が法華経の寿量品を唱えるシーンは字幕表記がないし、誰に配慮したんだか。法華経は日本固有の経典じゃないんだけど…。
CGではなく着ぐるみなのか、鬼の動きがぎこちない。どうせ悪者なら、もっと大暴れして欲しかったし、風水の相克が理由でツルハシで倒されるのも、なんか情けない。貴様それでも、もののふか?!
個人的には、霊の存在を全否定こそしないが、呪いや祟りの類いは一切信じていない。
作品を観賞した動機は『ソウルの春』(2023)を引き合いに語る媒体が多かったからで、本来、好みのジャンルではない。
それでも観点を変えれば自分のようなタイプの映画ファンにも見どころはある作品。
レビューを投稿する前に風水について調べようと検索したら、『AIによる概念』で掃除の際にどうしたらいいとか、水回りはどうしろとか迷信じみた話ばっかり。コンピューターのくせに、こんなの信じてるなんて…。
貴様、それでもAIか!!