「<映画「HAPPEYEND」> 上映中 監督:空 音央(そらねお)...」HAPPYEND HiraHiraHirappaさんの映画レビュー(感想・評価)
<映画「HAPPEYEND」> 上映中 監督:空 音央(そらねお)...
<映画「HAPPEYEND」> 上映中
監督:空 音央(そらねお) 初の長編映画
どこから話そうか。思うところがいっぱいの、そして忘れかけていたあの思いと、口の中に広がる苦い苦い悔しさが甦る、そんな映画でした。
まず、テクニカルな面から言えば、映像の切り取り方、映し方はもう、どこを取っても素晴らしい。そして、長編は初めてというのに、映画の全てに独特の空気感、世界観で統一されていて、近未来だとわざわざ言われなくても、奇妙な違和感が「絵」だけで感じる事が出来る。どういうテクニックなのだろう?
ストーリーは、学校や社会といった体制と、それに反発し自由を求める人とのせめぎ合い、、、とは思わなかった。 極めて純粋に、これまで取り上げられて来なかった、高校生として極めて普通の、しかし一色ではない多様な価値観のぶつかり合い。そして、少しも説教臭くない。押し付けがましくもない。素晴らしい脚本と構成でした。
映画としての完成度の高さ、役者、演技、脚本、演出、構成、カメラワーク、どこを取ってもここまで極めて高いところでバランスされた映画は、数少ない。しかし、完成度の高い映画は、例えば山田洋次の様に、どこかで見たような小さくまとめられた映画になりがちだか、これは違う。 とはいえ、激しい暴力やぶつかり合いのある映画では無く、権力側の象徴であるはずの佐野史郎の校長ですら、普通に良い人の範疇に入るほど、いい人しか出てこない。。。 そう、だからこそ、それぞれの人の、それぞれ違う価値観や大切なもの、守るべきモノの違い、考え方や感じ方の違いが浮き彫りになってくるのだと思う。
映画の中ではないが、どこかの誰かが、「友達と仲間は違う」と言っていた。友達は利害も目的も持たない、だからこそいい。しかし、共通の目的を持っていないので、協力しあえない。仲間は目的の下に集まるからこそ、共通の価値観を分かち合える。しかし、赦し合う事が難しい。 この映画では、そういう「ただの友達」から「目的を持った仲間」が必要になる場面があり、ただ友達として馴れ合っている事に疑問も出てくる。。。 だけれども、やっぱり「利害のない友達」のいい面も、よく描かれているなと思う。
この映画のコウは、まさに高校時代の私に似ている。何か社会のおかしさに気づき、抗い始めたまさにそんな時代が高校時代だった。私はその昔、関西空港の反対運動を有志で取材して、文化祭で発表した。聞きつけた新聞社が3社取材に来て、先生方は学校や我々有志が反対運動を支持しているとかそういう事ではなく、純粋に公平な立場で、問題点を考察しているだけだと、説明に追われていた。
ユウタとコウは、幼い頃からの友達。供に音楽の世界にのめり込んでいる。
しかし高校生になり視野が広がると、世界を変えたい、そのためにデモにも参加しているコウ。 一方、ユウタは音楽など楽しい事さえしていれば十分だと言う。 私には、どちらも正しい感じ方だし、どちらもそれなりに意味ある価値観だと思える。
そうしてコウは次第にユウタと距離を置くようになるのだが、最後の最後、結局学校の校則(セキュリティシステム)を変えたのは、ユウタであり、コウは結局何も変えられず、何もできないまま社会システムの中に組み込まれていく。。。
最後のこの部分、私の中でも何か経験があるような、そんな気分になった。 あの時の有志は今どうしているのだろう? 高校卒業以来40年以上、やっぱりシステムの中で生きて来て、バブル崩壊後の長すぎる30年は、我々にも責任があるはずだ。 それでも自分なりに、自分でできる範囲で、あまりにも微力で少しだが、社会をよくする方向へ向けられたのではないかとも思っている。そんな事を想起させられる映画でした。
今年一番を付けてもいい、素晴らしい映画でした。
何より、完成度がとても高い。
もうあと少ししか公開期間がありませんが、機会があれば是非見て欲しい映画です。