「【”逃げ出したい・・。”歴史的にイスラム教徒比率が高く、故に家父長制及び男尊女卑思想が強きパキスタンの若き夫婦の葛藤を描いた作品。彼の国の女性の位置づけと共に、最後半の展開が強烈な余韻を残す逸品。】」ジョイランド わたしの願い NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”逃げ出したい・・。”歴史的にイスラム教徒比率が高く、故に家父長制及び男尊女卑思想が強きパキスタンの若き夫婦の葛藤を描いた作品。彼の国の女性の位置づけと共に、最後半の展開が強烈な余韻を残す逸品。】
ー ご存じの通り、パキスタンは長らく英領だったが、1947年に独立した際にヒンドゥー教徒の多くは新生インドへ。イスラム教徒はパキスタンと言う新しい国で生活を再開させた。この辺りを詳細に描いている映画としては「英国総督 最後の家」があるが、いづれにしろ、両国の諍いは今でも続いている。
だが、パキスタンでは国内でも、以前として女性の就職率は低く、男尊女卑思想は根強いのである。-
■パキスタンの大都市・ラホールが舞台。
保守的な中流家庭、ラナ家の次男・ハイダルは失業中で、厳格な父からの「早く仕事を見つけて男児を作れ!」というプレッシャーを受けている。
一方、妻のムムターズはメイクアップの仕事にやりがいを感じ、家計を支えていたが、ハイダルが漸くダンサーとしての職を見つけたために、強制的に仕事を一時中断するように、一家の長や兄、そして気弱なハイダルから言われてしまう。
ハイダルは、ダンサーとして舞台に立つ中、トランスジェンダーのトップダンサー、ビバ(自身でトランスジェンダーを公表しているアリーナ・ハーン)の周囲からの偏見や嫌がらせに負けず立ち向かう姿に、自分にないモノを感じ惹かれて行く。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・多分、今作は人生初のパキスタン映画である。パキスタンを舞台にしたインド映画は多数観て来たが。そして、今作程パキスタンの国情をストレートに表現している事に驚くのである。
・手元の今作のフライヤーを観ると、当初今作は、パキスタン国内での上映を全面的に禁じられたそうだが、通学途中にタリバンに襲撃されながら、奇跡的に一命を取り留め、その後の勇気ある行動でノーベル平和賞に輝いたマララさんを始めとした方々の支援により、上映が解禁されたとある。
それくらい、本作の内容は、重いのである。
・今作の最も悲劇的な人は、私は矢張りラナ家の次男・ハイダルの妻のムムターズであろう。やりがいを持っていたメイクアップの仕事を奪われ、ダンサーの職を得た夫も自分よりもトランスジェンダーであるビバに惹かれて行く現実。
彼女が兄嫁ヌチに、衝動的に”逃げ出したい・・。”と呟くシーンからの展開は観ていて辛い。
悲しみに暮れる大家族ラナ家の中で、怒りを夫や義理の父、そしてハイダルにぶちまけるヌチの姿と言葉。”アンタたちが殺したのよ!”
・そして、ショットはハイダルの回想シーンである、ハイダルとムムターズが金網越しに話すシーンに移る。ムムターズはハイダルのプロポーズを受け、”ハンサムだから・・。”と笑いながら言い、更に”式のメイクアップは私がするわ。”と嬉しそうにハイダルに話しかけるのである。
映画は、一人海に入って行くハイダルの後ろ姿を望遠で撮るショットで終わるのである。
<今作は、歴史的にイスラム教徒比率が高く、故に家父長制及び男尊女卑思想が強きパキスタンの若き夫婦の葛藤を描いた作品であり、彼の国の女性の位置づけと共に、最後半の展開が強烈な余韻を残す哀しき逸品なのである。>