劇場公開日 2025年3月7日

「丁寧な作りだけに、話の進行はかなり遅く感じられました。ただ、歌も演技もはまり役の2人の存在感と彩り豊かな映像も相まって、目が覚める思いです。」ウィキッド ふたりの魔女 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5丁寧な作りだけに、話の進行はかなり遅く感じられました。ただ、歌も演技もはまり役の2人の存在感と彩り豊かな映像も相まって、目が覚める思いです。

2025年3月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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 名作児童文学「オズの魔法使い」に登場する魔女たちの知られざる物語を描き、2003年の初演から20年以上にわたり愛され続ける大ヒットブロードウェイミュージカル「ウィキッド」を映画化した2部作の前編。後に「オズの魔法使い」に登場する「西の悪い魔女」となるエルファバと、「善い魔女」となるグリンダの、始まりの物語を描いたファンタジーミュージカルです。原作の主人公であるドロシー・ゲイルが竜巻に巻き込まれてカンザスからオズの国へ迷い込む以前の物語が描かれます。ちなみにドロシーは本作の冒頭で後ろ姿のみ出演しています。
 但し多くの人は映画を見る前、作品がパート1だということ知らずに鑑賞することになります。それは普通ならタイトルに「パート1」と明記されるはずなのに、本編の原題「Wicked」にも、「PARTONE」はついていないからです。
 連続ものという予備情報がある場合とない場合で、見た印象が違ってくるのではと疑問を感じてしまうかもしれませんが、前編だけでも充分な展開でした。
 続編となる『ウィキッド:フォー・グッド(英語版)』(原題)は2025年11月21日に公開予定です。

 今作は米アカデミー賞で美術賞と衣装デザイン賞に輝きました。原作に忠実に描かれる物語は、多様性を認め合おうと訴えかけます。また多彩な歌やダンスは楽しさと感情の高ぶりを呼ぶことに。映画を見る目的が何であれ、どの世代も高い満足感を得られることでしょう。

●ストーリー
 オズの国では、マンチキンランドの住民たちが西の悪い魔女の死を祝っていました。空から現れた善き魔女グリンダは、悪い魔女の過去について語りはじめます。悪い魔女は当時のスロップ総督の妻と旅のセールスマンとの不倫の末に生まれたとのことでしたが、緑色の肌を理由に誕生直後から拒絶され、困難な幼少期を過ごした。悪い魔女と友人だったのかと尋ねられたグリンダは、「知り合いだった」と答え、過去を振り返りはじめます。
 数年前。後の西の悪い魔女ことエルファバ・スロップ(シンシア・エリヴォ)は、車椅子を使う妹のネッサローズ(マリッサ・ボーディ)をシズ大学に連れて行きます。大学の魔法学部長のマダム・モリブル(ミシェル・ヨー)は、エルファバの無意識の魔法能力を目撃し、個別指導を提案するのです。エルファバはこれを受け入れ、自身が憧れるオズの国の支配者、オズの魔法使い(ジェフ・ゴールドブラム)に会う機会を得られると期待します。
 しかし、後の善き魔女こと陽気で人気者のガリンダ・アップランド(アリアナ・グランデ=ブテーラ)と相部屋になったことに不満を抱き、二人は何かと対立します。ある夜エルファバは、差別に直面しているというヤギのディラモンド歴史教授( ピーター・ディンクレイジ[声]、ルイサ・ゲレリオ[動作])をキャンパス外の彼の家まで追いかけます。ディラモンドは他の動物たちが市民権を失いつつあると語り、エルファバは魔法使いがこの問題に対処してくれるはずだと語ります。

 一方、反抗的な転校生フィエロ・ティゲラール(ジョナサン・ベイリー)は学生たちをオズダスト・ボールルームに誘います。、
 オズダストでは、エルファバがガリンダから受け取った帽子をかぶったことで周囲から嘲笑されているのを見て、ガリンダは罪悪感を感じ、エルファバと共に踊ります。言葉を越えて息を合わせて踊ることで、二人の間に友情が芽生えるのです。

 やがてエルファバは魔法の習得を認められ、オズの魔法使いから首都エメラルド・シティにある宮殿への招待を受けることになります。共に向かうことになったガリンダは、周りから正しい発音で名前を呼ばれないことから、呼びやすい「グリンダ」に名前を変えます。二人は列車に乗り、エメラルド・シティを訪れ観光を楽しむながら、友情を確かめ合うのでした。

 もともと見た目も性格もまったく異なる2人で、最初こそ激しく衝突していました。しかし、次第に友情を深め、かけがえのない存在になっていたのでした。だだこの出会いが、やがてオズの国の運命を大きく変えることになっていくのです。

●解説
 この物語は、「人は一面的な存在ではない」ということを私たちに教えてくれます。 後の「悪い魔女」と呼ばれるエルファバにしても、この映画を観れば本当の“悪者”ではないことがわかります。
 一方、裕福な家庭で、皆から愛されて育ったグリンダには、世間知らずなところがありました。彼女が全てだと思っていた世界が壊れたときこそ、彼女が本当に持つ可能性が開花することになるのでしょう。
 またエルファバにとって憧れの存在であったオズの魔法使いにしても、物語の進行と共に次第に彼女を失望させる別な顔が覗きはじめるのです。
 本来は和解し合えるのに、肌の色の違いや、文化の違いなど上辺だけの決め付けて対立したり憎しみあったりする人間関係を乗り越えて、お互いを理解し合えるようになれるのだろうかというテーマが本作には描かれています。それはまさに、今の時代にとても重要なメッセージであり、同時に時代を超えた普遍的なテーマでもあります。『オズの魔法使い』の時代からずっと伝えられてきた、語り継がれるべき物語だと感じています。

 どのシーンも幻想的で、細部までぬかりがありません。例えば、冒頭には広大なチューリップ畑が登場しますが、これはなんとCGではなく本物なのです。イギリス・ノーフォーク州にあるチューリップ農家の協力のもと、900万もの球根を実際に植えて虹色の花畑を完成させたというから驚きです。
 さらに川を船で渡った先にある荘厳な大学。回転する巨大な本棚がある図書館のシーンにはあっと驚かされた。国を統治するオズの魔法使いが2人を待つ、まか不思議なエメラルドシティも魅力的。

 さらに3時間近い超大作となった本作で退屈させないのが、ミュージカルシーンです。「イン・ザ・ハイツ」の気鋭ジョン・M・チュウ監督は、歌って踊れるプロを厳選。大スターのアリアナ・グランデも、厳しいオーディションを勝ち抜いてグリンダ役を射止めました。彼女が高音を生かし歌うスティーヴン・シュワルツの名曲「ポピュラー」のシーンは特に心が躍ることでしょう。舞台版初代キャストのカメオ出演や日本語吹き替え版声優の選択に至るまで、全編ミュージカル文化への敬意に溢れています。
 前途した大学の回転する書架のダンスシーンやエメラルドシティで街を挙げて市民がこぞって踊るエルファバの歓迎式典シーンは圧巻です。

●感想
 丁寧な作りだけに、話の進行はかなり遅く感じられました。ただ、歌も演技もはまり役の2人の存在感と彩り豊かな映像も相まって、冗長とまでは感じず、途中で目が覚めました(^^ゞ
 クライマックスを飾るのは、エリヴォが高らかに歌い上げる名曲 「ディファイング・グラヴィティ」。疾走感にあふれる映像とパワフルな歌声を心ゆくまで堪能でき、後編は一体、何を見せてくれるのか期待も高まったのです。

流山の小地蔵
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