「空想で理想論を語れる人ほど、その時に真逆の行動をしてしまうのが人間というものだと思う」ぼくの家族と祖国の戦争 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
空想で理想論を語れる人ほど、その時に真逆の行動をしてしまうのが人間というものだと思う
2024.8.21 字幕 アップリンク京都
2023年のデンマーク映画(101分、G)
終戦間近のデンマークを舞台に、ドイツ難民の受け入れを許容された大学長一家を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本はアンダース・ウォルター
原題は『Når befrielsen kommer』で「解放が来るとき」、英題は『Before It Ends』で「終わりが来る前」という意味
物語の舞台は、1945年のデンマーク・リュスリンゲにある大学
その大学長であるヤコブ(ピルウ・アスベック)は、進駐しているドイツ軍の将校ヘルツォーク司令官(Ronald Kukulies)から、ドイツ難民200人を受け入れろと言われてしまう
理事のラウリッツ(ウルリッヒ・トムセン)はやむなく受け入れることになったが、その数は当初の予定を大きく上回る500人を超えるものだった
ドイツとの協定により、場所の提供だけのはずだったが、ドイツ軍は医療体制も提供せず、食料も届かなかった
ジフテリアが蔓延し、体力の弱い者から亡くなっていく惨状で、それを見兼ねたヤコブの妻リス(カトリーヌ・クライス=ローゼンタール)は、秘密裏にミルクの提供を行うが、それが問題視されてしまう
だが、これ以上の感染拡大は生徒にも影響があると考え、ヤコブはジフテリアに必要な薬を探すために奔走することになった
そして、その行為は「裏切り者」と断定され、ヤコブの息子セアン(ラッセ・ピーター・ラッセン)は、同級生のカール(アンドレアス・フォン・ホルト)らからいじめられることになったのである
映画は、史実をベースにしたフィクションで、当時の状況を鑑みて、人道的な正しさと国民の在り方を問うているような内容になっている
彼らは「正しいことをした」として、胸を張って祖国を去ることになるのだが、あの土地で暮らしていく意義というのを感じなかったのであろう
とは言え、地域住民たちも好きで排除しているわけではなく、戦時中の敵国の難民の援助を裏切り者だと思っても仕方ないと思う
両親をナチスに殺された音楽教師ビルク(モルテン・ヒー・アンデルセン)はその感情に対する筆頭のような存在で、戦争後の彼は人が変わったような感じになっていた
それでも、ヤコブの最後の行動を見逃したように人間的な一面は残していたが、彼らの通報によってヤコブは大学を追われていることを考えると、その時期の治安を守るためにはやむを得なかったのかもしれない
どちらが正しいか論は意味をなさず、生き残ることを考えた時に、他民族に対して配慮ができるかどうかというのは、これまでの人生に依ると思う
ヤコブも家族がナチスに殺されていたらどう行動していたかわからないのだが、戦争に関して子どもが無関係であるということは否めない
人道的な側面に関して言えばヤコブの行動は当然であると思うが、総合的な見方をするならば、約束を守らないドイツ軍を頼りにするのは愚の骨頂だったとも言える
当時の非人道的な行動がどれほど各地に伝わっていたのかはわからないが、受け入れ強要の時点で大学を閉鎖するしかなかったように思ったが、そう簡単に事が運べば誰も困らないのだろう
いずれにせよ、少年セアンが見る大人の景色という感じになっていて、彼自身も右往左往していく様子が描かれていく
自分を気にかけてくれた少女ギセラ(Liv Vilde Christensen)を助けたいと思うのは普通のことだし、両親の反発される行動にも理解を示していた
戦争は異常な状態で、負の連鎖の中で人間性を保つことが難しいと思うが、その状況下で適応できる人は、その後も変わり身ができて器用に生きていけるのだろう
そう言ったものが生命力であり、その先にある活動が戦争とも言えるので、これは生まれ持った人間の資質の一つなのかなと感じた
自分ならどうするかを考える映画であるものの、空想と現実は違うので、その時になってみないとわからないものなのだと思った