「マイケル・ケイン、任務完了」2度目のはなればなれ 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)
マイケル・ケイン、任務完了
【これだけ長期間、テレビで、映画館で、見続けられた俳優は、イーストウッドとマイケル・ケインの他にいるだろうか】
「マルセイユ特急」淀川長治の日曜洋画劇場だったとおぼろげに記憶している。
(前後で「リオの男」荻昌弘、「フレンチ・コネクション」水野晴朗だったような・・・)
劇場で「遠すぎた橋」「殺しのドレス」を鑑賞した時の衝撃は、
今も鮮明に記憶に残っている。
ヒッチコック「サイコ」のパーキンス変装キラーの恐ろしさは、
エンタメとしての怖さ、
デ・パルマ「殺しのドレス」のマイケル・ケイン変装キラーの気味悪さは、
振り返ったらそこにいそうな不気味さだった。
「勝利への脱出」「デストラップ」「ハンナとその姉妹」といった作品以降、
マイケル・ケインからは、
ローレンス・オリビエ、
アンソニー・ホプキンス、
ヒュー・グラント、
ジェレミー・アイアンズといったイギリス俳優特有の、
美しいイギリス英語と、
舞台で培われた特徴的なセリフ回しが際立っていた。
これらの要素は、
作品のテイストの影響もあり、
現代の俳優には日本ではなかなか見られない、
貴重なものになりつつある。
約半世紀にわたり、
新作映画を劇場で観ることができるという経験は、
感慨深いものがある。
本作では、
ノルマンディ上陸作戦というWWⅡの歴史的転換点の戦闘を舞台に、
歴史に翻弄され、
悲運を背負った老兵たちの、
心の傷跡を丹念に描き出し、
戦争の残酷さと人間の尊厳を、
若兵、老兵、ドイツ人も含めて対比させる。
作品の性質上、
回想のカットバック、シーンバックが多くならざるを得ない、
一般的には回想が増えるとストーリーにブレーキが掛かる、
が、
それらを感じさせないような若い人たちを配置するシナリオ、
その役割を的確に演じる芝居と演出の技術の高さは、
ケインやグレンダ・ジャクソンへの敬意の表れでもあるのだろう。
戦闘時の空、陸、海の悲劇、
ドイツ人の敬礼、フランス人の感謝など、
歴史から抜けられない出来事が丁寧に描かれている。
そして、ケインが任務完了、
タイヤの空気を抜いて、状況終了、
マイケル・ケイン、
グレンダ・ジャクソン、
そして
戦争という過酷な時代に生きた人々への、
贈り物のような作品だった。
【蛇足】
テレビで何度も観た、
「史上最大の作戦」→「The Longest Day」
「大脱走」→「The Great Escape」
本作は
「The Great Escaper」
ノルマンディ上陸作戦にかけて、
ではなく、
気持ちはマックィーンのヒルツ大尉なのかもしれない、
脱走17回・・・いや18回。
【蛇足の蛇足】
モーリス・ジャールの史上テーマと、
バースタインの大脱走テーマが、
口ずさんでると、
どちらかわからなくなる・・・
「ひまわり」「犬神家の一族」
「ロング・グッドバイ」
テレサ・テン「つぐない」
あるある・・・