劇場公開日 2024年8月23日

「滅多にお目にかかれない超傑作」ポライト・ソサエティ 田中スミゑ 90歳さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0滅多にお目にかかれない超傑作

2024年8月28日
PCから投稿

今年見て良かった映画ナンバーワン
最高に応援したくなるヒロイン
狭い人間関係の中での感情のぐじゃぐじゃばかり描いて、自我のない女を良しとする、日本映画も見習って欲しい
ラストマイルなんか比べ物にならない位良かった
全てのシーンが見せ場で、背景は「二度同じセットは使わない」というくらい多彩、中だるみも退屈もなし
パキスタンの金持ちの豪邸はまさに「邸宅」
生活に疲れた人の顔と、黄ばんだリビングばっかり映してる日本映画も見習って欲しい
インドは映画大国だから(本作はパキスタン、製作地はイギリスだけど)これぐらいじゃないと観客に視てすらもらえないのだろう、邦画とハリウッドは甘えている。
民族衣装最高。マザコン男のキモさが日本のラブコメで出てくる小物とは段違い
メッセージ性もちゃんと感じる
展開が早くて無駄な描写がないのもよかった!
観終わったら元気が出ます。物質、金、名声、女だけを追いかける日本とハリウッドの映画市場に疲れた・飽きた人にお勧めです。

「本当の豊かさ」とは何かとか、行き詰った産業大国日本の、00年代のアホな評論(中学校現国御用達)ばかり読まされたゆとり脳にもお勧めです。
「本当の」豊かさといってわざわざ「本当の」を付けないといけないということは、それは、「豊かさ」ではない何かなのです。「豊かさ」より価値があるということはないのです。
自分はたらふく食って糖尿病予備軍のルサンチマン詐欺師が自宅の椅子に座ったままメシの種にタイピングしている「本当の」豊かさなどという、まやかしの言葉を追っていたら「豊かさ」まで失うと思います。

インド・パキスタン系の映画を観るといつも思うのですが家族の繋がりや絆、情が濃く、女性も激しい感情表現をするので気持ちがいいです。日本のような察してメンヘラは出てきません。

あと主人公の脇を固める喪女軍団もいい味出してました。見た目がイケてないのですが、出てくるたびに好きになっていく。

主人公はスタントウーマン志望で、でも決して強くない(というかむしろ弱い。最後に敵に一発決めるぐらい)
これがハリウッドだと修行してめっちゃ強くなって、かっこいいヒーローが敵を倒すというウンザリな展開に。

日本だと負けても「夢を持ち続けて努力することの大切さ」を観客に教えてくれたり。
華奢で色白で、か弱いヒロインがひたむきに頑張るシーンを「これこそ大和なでしこだろ?女の子可愛いだろ」「頑張る女の子って守りたくなるだろ」とアピールされたり。
と実に押し付けがましく、おぞましい教養小説仕立てなのですが(戦争中のプロパガンダ少年小説かよ?と思ってしまう。鳥肌が立つ。)日本の映画はとにかく「あなたはこのように考えなさい」と指図してくる。ゾッとする。

こちらの映画は強引に結論出さないしその点でも気に入りました。
ラストにクソウザい大団円が待ってなくてあっさり終わるのも良い!
字幕の翻訳も実にお見事で、エンドロールの後は思わず、拍手してしまった。

金を払って、わざわざ観客に問題提起したり、何かを考えさせたり、嫌な気持ちにさせたりする図々しいアジアの映画を観るぐらいなら、この映画に5000円出した方がずっと爽快で気分がいいです、

まず娯楽作品としてパーフェクト、ギャグセンスも好みで、何回か声出して笑いました。
私は、前衛なんて求めてないし、映画という形態でしか表現できない娯楽をまず見せて欲しいです。以前インドの映画上映現場を見たことがありますが、戦後すぐの日本みたいに、広場に巨大なスクリーンがあって、そこに観客が集まってきて立ったまま見てるんですよね、現代でもそうなのかは分かりませんが、日本の観客みたいに、つまらなくてもマナー良く、品良く、最後まで見てくれたりしないと思う。だから要求が厳しく、中だるみがなく、飽きさせない仕掛けが必要なのだと思う。

チャプターごとに出てくる章題のフォントもセンスが良かった。

うん、こちらの映画は何もかも私好みでした。直前に観たラストマイルが何もかも気に入らなかったのでこれを見られて良かったです。ちなみに無料でした。

polite societyと言われると「高慢と偏見」みたいな映画を連想しますが、これは見合い話の映画としても、マイノリティの型破りな女の子が男を破る力を示す映画としても、カウンターパンチになってて良かった。そして、そんなありふれた二項対立にはおさまりきらないほどの地の面白さ、エネルギーとパワーと、ユーモアの力があった。日本で事あるごとに揚げ足とって暴れる、理性を失った一部のおかしいフェミニスト(ちゃんとしたフェミニストもいますが)の主張に耳を傾けるより、こっちを見た方がいい、女性で良かったと思えるから。

田中スミゑ 90歳