「取るぞ…👌(←キムタクの指3本)」グランメゾン・パリ kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
取るぞ…👌(←キムタクの指3本)
フランス・パリで、アジア人初(※)のミシュラン三つ星獲得を目指す料理人 尾花夏樹(木村拓哉)とその仲間たちの奮闘物語。
評価を得るために戦うレストランは、まるで団体競技のチームのよう。
勝利への道程はスポ根漫画のセオリーを踏襲していて、対決するライバルこそ出てこないが、難題、障壁を主人公たちが乗り越えていく熱盛りエンターテイメントだ。
(連ドラ「グランメゾン東京」ではライバルとの対決もあった)
※実際には小林圭シェフの「Restaurant KEI」が2020年から5年連続「ミシュランガイド・フランス」で三つ星を獲得していて、これがアジア人初だとのこと。小林シェフが本作の料理監修に当たっている。
前半の尾花の孤立ぶりは、平凡なチームにやってきた天才プレーヤーの佇まいだ。
勝つための戦術は自分ひとりで考える。チームメートの力は信用しない。
序盤の尾花の唯我独尊ぶりや、盟友だったはずの早見倫子(鈴木京香)との不仲ぶりは連ドラ版視聴者にとっては唐突だ。
映画単体では最初のうちは尾花が単に嫌な男に見える。
でも大丈夫。そこは天下のキムタクなのだ。どうあってもキムタクであることに寸分の狂いも見せない。きっと最後にはいいヤツで終わってくれるはず。
スポ根風なら、まずは尾花の独断専行が成果を示してチームメートたちを黙らせる導入部が欲しいところ、この映画はそこを端折っていて、いきなり尾花は鼻を折られる。
これじゃ尾花は単に嫌味でダメな料理人じゃないか、となってしまうが、レストラン「グランメゾン・パリ」がミシュラン二つ星を連続で得ていることを見せて、彼が実力者であることを教えてくれている。
だから、店のメンバーは横暴な彼であってもついていくのだ。
韓国人パティシエのリック(オク・テギョン)との対立とか、パリジャン・ヤクザの登場などはやや短絡的な印象。
尾花がチームの必要性に気づく展開にも強引さを感じる。
だが、仲間たちに結束を呼びかける尾花=キムタクの図には、劇中のキャラクターたちと同様に我々の心まで掴む迫力がある。
チームのみんなが団結を誓ってからの怒涛の好展開は予定調和どころではないトントン拍子。
それでも良い。2023年ワールド・ベースボール・クラシックの〝侍ジャパン〟に涙した私たちは、こういう展開に弱いのだ。
監督の塚原あゆ子という人、前作『ラストマイル』で映画の何たるかをわきまえた演出家だなと感じたが、本作でもその技量を発揮している。
なにしろ、この脚本でここまで盛り上げられるのは、魅力的な俳優たちの存在があったとはいえ、演出の力に相違ない。
パリでのロケーションを敢行したといっても、基本が室内劇だから割合的には限られているのだが、街中や市場などの現地ロケを感じさせる場面が上手く織り込まれていた。
フランス料理とは何かという解説が、連ドラ版で語られなかった部分に焦点をあてていて、そこが尾花たちのチャレンジのテーマになるという脚本には知性を感じる。
そして、その成果物である料理を映像で説明する演出がまた、見事だった。