「悪かない作品。というか良かった。」悪い夏 まつこさんの映画レビュー(感想・評価)
悪かない作品。というか良かった。
市役所の生活福祉課に勤める真面目な公務員がある同僚の起こした事件に知らぬ間に巻き込まれて破滅に転落していく姿を描いた話。という映画ではあり、予告やポスターはまさにそんな感じを描いていて、まあ胸糞系なんだろう…と思いつつも、大好き城定秀夫監督の作品なので観に行った。
こないだ公開された「嗤う蟲」もそうだったけど、内容的にはいたたまれない、辛い、胸糞悪い展開もあるんだけど、そこだけをフューチャーしてエンタメにしちゃおうという内容にはならないのが有難かった。城定作品なので…。
多分そういうのを売りにしている映画を撮ろうとしてないんだなといつも思う。だから好き。
生活困窮者、そこにつけ込む役所の人間、不正自給者、生活保護ビジネスで悪い金稼ぎをする裏社会の人間など…様々な人間を生活保護や生活困窮というテーマが真ん中にあり展開していくんだけど、だからさらで楽しめるような内容では決して無いし、なんかほんとどう言えばいいのか難しいのですが、予告・ポスターにある、全員クズ・ワルという訳では無かったです。
主人公・佐々木(北村匠海)と、主人公の出会うシングルマザーの愛美との間にはちゃんと純愛(か情)があったし、娘との3人の間で心を通わせてく時間は本当の時間だった。(自分に向けられたバースデーケーキを見た愛美、河合優実の表情はずっと忘れられない)
その後周囲のクズ人間達により最悪な方向へ進まされる3人だったけど、多分心通わせた時間があったおかげで、というかなければこうならなかったという展開もいくつかあり、それが完全じゃ無いけど救いに繋がる。
壮絶なラストシーンは、最終回かってぐらいの当事者全員大集結で、とにかく観客が帰るまでに一旦、一旦全て集結させるべと言わんばかりの怒濤感があって、全然笑うシーンでも無いのに一人一人の気持ちが大爆発してて「あーあーあー」と思いながらも、笑った。(ほんとにほんとに、笑うシーンでは無い)
この胸糞状態から(観客側的に)解放される安堵と、全登場人物、色んな思い抱えて興奮状態に陥って行動が元気過ぎるぜ…が入り混じって、笑った…。伊藤万理華演じる同僚の宮田は…、だと思った…と思った笑。毎熊さん自体は確かにかっこいいから笑。
(佐々木が、ある親子の事件がきっかけで、もう一緒に死のうと愛美に言い、それをすんなりいいよと愛美が受け入れたシーンは、諦めだけじゃなく元々そこにあった情のようなものも後押しした展開だと思って…少し胸熱だった。私だけかな…)
あと、パンフレットにあったけど、原作では、ある人が死んでしまう展開や薬物に溺れてしまう展開があったらしく、城定監督はそこを映画で切った。私は原作未読なので、作品性的にどうなのかは分からないけど、それが本当に救いだった…人が死んだり薬中になる展開が映画的に嫌いなんじゃなく、今回は作品の中の人に結構情が湧いてしまったから、、良かったぁ〜と思った。(あくまで個人の意見です…。) 人によっては、何故ここは原作に準じないんだとか監督の思想入れてしまったのとか言う人もいるけど、私は映画自体、人間が作ってるものなので、監督の心情が作品に入ってしまうことは悪い事じゃないと思う派です。
ポスターや予告の闇堕ち感が怖くて行けない人でも、とりあえず一度気になるなら観てみて欲しい。その人の環境や状況によっては観てて苦しいだろうからそこは考慮しつつですが…。
この内容を観て映画として楽しんでしまう私は平和な人生を過ごしてる、色んな意味で幸せな人間なんだと思う。