「仲野太賀の一人勝ち」十一人の賊軍 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
仲野太賀の一人勝ち
戊辰戦争において新発田藩が奥羽越列藩同盟から新政府へ寝返った史実(※)を背景に、新発田城下で同盟軍と新政府軍が衝突することを避けるために、処刑を待つ罪人たちを新政府軍足止め要員として送り込んだというフィクション。
※新発田藩はそもそも勤王が藩論だったから、錦旗を掲げた新政府に反抗する同盟に加入したことが城下の民意に対しては裏切りだったかもしれない。
もっとも、同盟の各藩も新政府と戦をしたかったわけではないのだが…。
この映画はすこぶる評判が良く、そろそろロードショーが終わりそうだったので慌てて劇場へ駆け込んだ。
だが、私は物足りなさを感じた。
多くの登場人物たちを一見丁寧に描いているようで、それぞれバラバラの断面を見せているだけで中途半端なのだ。
アクションにそれなりに尺を割かなければならないうえに、中途半端な人物描写にも尺を使っているから全体が長くなっている。もっとダイエットできたはずだし、面白い設定が活かされていない気がした。
主人公は罪人の政(山田孝之)と足軽の鷲尾兵士郎(仲野太賀)の二人だ。
この二人の間に対立や友情のような物語はない。だが、最後に共通の敵と戦うというドラマ構成が秀逸なのだが、兵士郎の道場仲間だった藩士入江数馬(野村周平)にも花を持たせたりするから、ボヤケてしまっている。
罪人たちを最後は口封じしろというのは藩命だ。なのに数馬は罪人たちに謝り、家老に放免をかけ合うと約束する。それほど罪人たちと心が通った訳でも、罪の意識を持っていた訳でもないのに、唐突なのだ。藩命に背く数馬の藩士としての矜持は何なのか。
家老溝口内匠(阿部サダヲ)の娘(木竜麻生)が数馬の許婚者だというのも布石がなく、一人で砦にやってきて数馬の死を看取るお涙には無理やり感が否めない。
家老を悪役にするのは良いとして、幼君溝口直正(柴崎楓雅)をわがままなバカ殿のように描いていながら、結局それに翻弄されるでもなく、家老の独断で事が進んでいく。
家老の妻(西田尚美)に至っては、存在感が薄かったのに自決するに及び、家老に何を訴えたのか。
笠原和夫の幻のプロットを評価する専門家筋のコメントを目にするが、脚色と演出への評価ではないのでは…。
とはいえ、上記のような不完全な人物描写を除けば、スケールも大きくて面白い面はある。
砦の攻防アクションは、確かに見どころだ。
あんなロケ場所をよく見つけたなと、そこによくオープンセットを作ったなと、感心する。
官軍が大砲をあんな場所まで運ぶのは大変だったろうと思うが、大砲攻撃がないとあの攻防は盛り上がらない。やはり、今の映画ならではの演出だ。
吊り橋を爆破するメインイベントは、特に面白い。
油を使っての奇襲はリアリティに欠けるものの、その後チャンバラまで展開して盛り上がる。
そして、最後に家老と兵士郎の直接対決だ。
この映画は、阿部サダヲvs.仲野太賀だったのだとハッキリ示している。
芸達者な二人の役者による渾身の演技合戦は見応えがあった。
特に、全身で見栄を切る仲野太賀のエネルギッシュなパフォーマンスに魅せられた。
さて、10人の罪人たちの中で2人を生き残らせたのは、そこだけ切り取れば悪くはないのだが、そもそも笠原和夫が製作と対立した理由が「全員死ぬ」結末だったのなら、笠原和夫の無念はこれで晴らされたと言えるのだろうか…?
そう「全員死ぬ」事が、笠原和夫氏には重要だった思うんですよね。
本作は、賊軍の人物達に感情移入して、生き残って欲しいと思わせ無いんですよ。
官軍の圧倒的な火力とかの絶望感もなく、さっさと逃げて斬り殺される人もなく、どちらに転んでもヤられる状況って感じも無い。
kazzさんの意見におおいに共感します‼️やはりアクション映画も、登場人物たちのキャラ描写と人間ドラマあってこそですね‼️大体アクション映画で名作と呼ばれる映画は、みんな人間ドラマがしっかりしてる作品が多いですよね‼️最近のアクション映画は薄っぺらいキャラたちが繰り広げる、やたらと派手な場面やドンパチを、CGかなんかでゴマかしてる印象が強いです‼️私が敬愛する黒澤明監督の言葉「人間を描く手を緩めずに、壮大な活劇を描きたい」‼️最近、この言葉をよく思い出します‼️
おはようございます。コメント&共感有難うございます。
今作は、個人的に白石監督&山田さんが出演と言う事で、かなーり期待したのですが、ちょっと作りが粗かったかなと思いましたね。
けれども、仰る通り仲野太賀演じる鷲尾が、新発田藩家老の阿部サダヲ演じる溝口に刀で切りかかって行くシーンは”最後の侍”と言う感じで、良かったのですよね。滅びの美学って感じで。では、又。