「名もなき訳あり賊(おとこ)たちに奮えろ」十一人の賊軍 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
名もなき訳あり賊(おとこ)たちに奮えろ
時代劇は失われゆくジャンル…と言われて久しいが、その都度その都度心掴まれる時代劇は生まれている。
今年なんてまさにそう。言うまでもなく、あのドラマとあの映画。
時代劇は決して失われたりしない。
この二つはちとイレギュラー。片やハリウッド製作、片やSFコメディ。
ここいらで、大和魂震えるような本格時代劇活劇が見たい…。
一本の“幻”が掘り起こされた。
戊辰戦争最中。藩の為に命を懸けて闘うも、藩の寝返りや裏切りによって、葬り去られた男たち。
驚く事に、実話…! いや、歴史の激動時、こういう秘話は他にもあったかもしれない。
アウトローたちの生きざま、権力への抗い…。
この史実を基に脚本を書き上げたのが、『仁義なき戦い』で知られる笠原和夫。
が、ラストを巡って脚本は却下された。
激怒した笠原は脚本を破り捨てたという…。
それから半世紀の時を経て。遺されたプロットを掘り起こした者がいた。
白石和彌。
何と言う奇遇だろう。笠原脚本の『仁義なき戦い』を彷彿させる東映やくざ映画『孤狼の血』の監督。
いや、奇遇でも偶然でもない。必然であり、運命だったのだ。
俺の夢は叶わなかった。いつか誰か、叶えてくれ。
あなたの思いを受け継ぎます。
男たちの熱き思いと数奇な巡り合わせ。それは作品にも。
新たな時代を切り拓こうとする新政府軍と徳川幕府存続にしがみつく旧幕府軍との間で勃発した戊辰戦争。
その争いは各地で起き、新潟湊・新発田藩にも選択迫られるが、家老の溝口はどちらに付くか決めかねていた。
藩は旧幕府軍の同盟軍に加わり、出兵を求められていたが、溝口は密かに新政府軍への寝返りを企てていた。
そんな時、新政府軍が藩への進軍の報。同盟軍と鉢合わせてしまう。
進軍の心の臓とも言える砦で新政府軍を食い止めよ。
作戦の命を受けたのは、使い手武士と、十人の罪人たち…。
歴史というのは分からない。
その時の非となりそうな選択が、後年どういう結果をもたらしたか。
映画的に見れば、溝口は寝返った裏切り者だ。
作戦を命じるも、新政府軍の先発隊が藩に現れるや否や、目論見通り寝返り、忠誠を見せる為に十一人の決死隊を逆賊として討つ…。
劇中でも揶揄されていた“猿芝居”。非道な斬り捨て。阿部サダヲが巧い。
権力に与した許し難い奴だが、結果的に彼の選択が新発田の藩と民は守られた。
結果的には選択は間違ってなかったと言えるが…、
葬り去られた男たちの無念は…?
利用され、弄ばれ…。しかし、男たちの中にあった熱き思い、声…。
笠原和夫と白石和彌が吠えるほど代弁する。
確かに男たちは揃いも揃って悪人たちばかり。
殺し、イカサマ、放火、姦通、密航…。
が、望んでそうなった訳じゃない。社会の不条理やそうなってしまった事態。
人足の政。耳の不自由な妻を手篭めにした新発田藩士を殺害。
犯した罪は許されない。が、元凶である藩士の罪は…? 藩士なら身分の低い者への仕打ちを許されるというのか…?
権力の横暴は昔も今も同じ。そんな権力に抗うアウトローたちの姿を、笠原和夫は一貫して描き続ける。
にしても不条理だ。
政は新発田を許せない。藩がどうなろうと知ったこっちゃない。
なのに、その藩の為に決死の闘いに参加する。
勝てば無罪放免。ほとんどがそれに釣られて。
政もそうであろうが、ちょっと訳が違う。
妻の元に帰る。
それと、闘いを通じて、誰とも関わろうとせず、寧ろ逃げ出そうとすらしていた男が、やがて仲間意識を…。
山田孝之が野性味たっぷりに。
しかし大金星は、仲野太賀だろう。
終盤、討ちに来た溝口一派。共に闘った仲間が無慈悲に殺され、剣を手に抗う。見事な殺陣も披露。
もう一人。初老の罪人。死闘の中で、目を引く剣術を見せる。演じた本山力は東映剣会の殺陣師。是非、『侍タイムスリッパー』ともお手合わせを。
壮大なオープンセット。泥臭さとバイオレンスにまみれた迫力のアクション。
特筆すべきは、大音響。是非、音響設備のいい劇場で。
ハリウッドならオスカー録音賞もの。日本バカデミーなら無視されるけど…。
第一級の大活劇だが、不満点・難点も多い。
罪人十人、個性的だが…、全員に平等に見せ場が設けられていない。キャラ描写が薄っぺらかったり、もっとくっきり色分けが欲しかった。
導入部やクライマックスは盛り上がる。が、中盤中弛み感も…。2時間半、長さを感じてしまった。
しっかり整理すれば混乱する事はない。が、各派閥や名称、地名などが飛び交い、時々こんがらがったりも…。
暗い画面も多く、例え明るい場面でも泥埃浴び、誰が誰やら分からなくもなってくる。
台詞の聞き取りづらさは本作に限った事じゃないが、聞き慣れない時代劇ではちとキツい。
大活劇時代劇にしたかったのか、権力に抗う硬派な訴えをしたかったのか、どっち付かずの声も。
でも、大和魂には触れる。
どうしてもこういう設定が好きなのだ。仲間を集い、少人数で立ち向かう。
『七人の侍』『十三人の刺客』『三匹の侍』…漢数字の付く娯楽時代劇の例に漏れず。
そして、それらの作品では必ず描かれる。
アウトロー、はみ出し者、寄せ集め…。
そんな賊(おれ)たちにだって、譲れないものはある。
名もなき訳あり漢たちの武勇伝。目に、心に、焼き付けよ。