「なんじゃあの煙は」十一人の賊軍 サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
なんじゃあの煙は
「碁盤斬り」が記憶に新しい、白石和彌監督の時代劇。あの作品は落語演劇だったため、ドラマがメインの完全なるエンターテインメント作品だったわけだが、本作は戊辰戦争と実際にあったものをモチーフにしたアクション大作であるため、白石色がより濃く出た作品になっている。まさに、幕末版「孤狼の血」といったところ。旧幕府軍vs新政府軍という構図は「ソウルの春」と似た部分もある。
キャストもキャストだから、かなり期待値高かったんだけど、んもうやばかった。ラスト20分がとんでもなくて心の中で大騒ぎ。「福田村事件」の時に味わった感覚と酷似。いやぁ...すごいなぁ...。
旧幕府軍vs新政府軍という時代を変化させた大きな戦いにもかかわらず、今回スポットが当たったのは両者からの板挟み状態に苦しむ新発田藩の罪人たち。こんだけのスケールでメインとなるのは武士ではなく、ただの落ちぶれた平民というそのギャップが既にたまらなく面白い。
ボロッボロの山田孝之は想像通り最高。昨年公開された「六人の唄う女」の時からさらに磨きをかけた感じ。すごく筋の通った人物で、周囲は苦しみを共にした仲間をも大切にしたいと考える一方で、彼は妻を助けたい、妻に会いたいとその一心。協調性のない人物と片付けることも出来るが、戦乱の世でこう考えれるのは最もらしいし、こういう人物こそ武士になるべきじゃないかとも思った。
一般的な時代劇よりも淡々とし、物静かでジメッとしているのも特徴のひとつ。本来、失われるはずだった命。いま、生きていることが彼らにとっては奇跡も同然で、おかげで死ぬことに対しての恐怖心はまるでない。恐れを知らず猪突猛進で敵に立ち向かう姿は、すごく生々しくて人間臭い。しかし、徐々に生を実感し、生きることに喜びを覚えていく11人。いつもの時代劇なら不死身のように感じてしまう戦士たちも、本作では残機1しかなく、たった1回の人生を必死に生きているんだということを強く感じる。命を軽く扱われている人々が主人公だからこそ、命の重さを訴えかける作品になっている。
155分と邦画にしてはかなりの長さだが、全くもって感じさせず、終始前のめりになってしまうほど没頭できた。豪華キャスト、と言いながらも、若手・新人の俳優をかなり起用しており、若干地味に映ってしまっているがとても臨場感溢れるリアリティに特化した作品にもなっている。キャスト全員の魂の叫びが聞こえる、最高のアンサンブル。チョイ役の人達もしっかりと爪痕を残していて、邦画好きとしては画面を眺めるだけですっごく楽しかった。柴崎楓雅の佇まいには驚いた。玉木宏の使い所もいい。佐野岳とナダルが兄弟役はめっちゃ笑った笑笑 最初全くわからんかったし笑笑
罪人たちの罪を互いに報告し合うところとか、両軍が新発田藩に迫ってくるところとか、シンプルに聞き取りずらかったり画面が暗いせいか分かりにくい部分が多く、大きな動きがあると毎度粗があってそれがかなり悪目立ちしていたけれども、中盤に山を作るのではなく終盤にドンッと一撃爆発させる構成はあっぱれで、次第に面白くなっていく右肩上がりの映画だったから夢中になって見ることが出来た。もうひとつ、何かぶっ飛んだものが欲しかった気もするが、インパクトはバツグンだし、これで十分大成功していると思う。やっぱ白石和彌はやめらんねぇ....。
個人的に仲野太賀という俳優があまり好きではなく、「今日から俺は」の今井は愛おしいほど好きだけど、それ以降も以前も彼にハマったことはなかった。今回もいつも通り、特に期待もせず見に行ったんだけど...これがビックリ。ラストで一気にぶち壊し、今後のキャリアに響くと思われる想像を絶するほどの最高の演技を見せてくれた。全身が沸きあがる。セリフでも声でもない。凄まじい目の演技。なにかに憑依されたようなその表情に、とんでもなく惹かれてしまった。身体が硬直してしまったもんね...。最後の最後に、全てを食ってしまっていた。素晴らしかったです。
白石和彌が撮った時代劇はどんな形であろうと好きになっていたと思うけど、この時代にこんなにも真正面からぶつかってくれる、昔懐かしい東映時代劇が見れて大満足だった。やっぱ時代劇はいいなぁ。作品の持つメッセージの重さが段違い。白石監督の愛が日々強まるばかり...☺️