劇場公開日 2024年11月1日

「誰に対しての「賊」か。「義」はどちらにあるか」十一人の賊軍 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0誰に対しての「賊」か。「義」はどちらにあるか

2024年11月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

難しい

「武士は相身互い」と言う。
「同じ立場の者は、
互いに思いやりをもって助け合うべき」との意だが、
この「同じ立場」がいやらしい方便。

上の者にはおもねるし、
下の者には居丈高になる。

それを如実に現わしたのが本作。

平民と一部の武士を除くほとんどの登場人物が
いけ好かないのだ。

『白石和彌』の監督としては十五作目。

そのうち時代劇は
〔碁盤斬り(2024年)〕に次いで二本目。

ハートウォーミングさが前面に出た前作に比べ、
今回は殺伐さが目立つ。

もっとも過去の暴力的な描写は健在で、
それゆえの「PG12」なのだろう。

戦の場面が多いので、
身体はばすばすと斬られ、肉は飛び散り、
血しぶきは際限なくほとばしる。

幕末の新発田藩では「奥羽越列藩同盟」に参加しながらも
新政府軍には恭順の意を示し、
両者の間を渡り歩きながら、
藩を主君を領民を守ろうとする。

そのために、進軍する新政府軍を数日足止めする要に迫られ、
死刑囚として牢内に居た十名と、お目付け役の武士数名を藩境の砦に派遣する。
ことが成れば罪を減じ、無罪放免にすると約束して。

勿論、これが空手形なのは最初から判っていること。
重臣たちは藩と主君のためであれば、
下位の者の命など塵芥に過ぎない。

その十名の罪状は様々。年代も性別も多様で、
皆一様にキャラが立っている。

もっとも各々の特性が、うち二人を除いては
実際の戦闘時にほぼ役立っていないのは至極残念。

造形の弱さとも見える。

ほとんどのお目付け役が人命を軽んじるなか、
唯一『鷲尾兵士郎(仲野太賀)』は違っていた。

相手が誰であれ、約束は約束。
当初の指令を履行するために奮闘し、
「義」のために最後まで猛進する。

その対極に在るのが城代家老の『溝口内匠(阿部サダヲ)』。
先に挙げた目的のため策を弄し、
(自分で)軽重を付けた領民や下級武士の命を平然と扱う。

もっとも、自身も手痛いしっぺ返しを喰らう。
それと併せ、維新後の体制は彼が望んだ通りなのだろうか。

当時幼かった主君は、華族にはなるものの、
最後は家運が傾くのだが。

大団円近しと思わせておきながら、
更に一波乱二波乱を見せるのは脚本の妙。

二時間半の尺を、緩急を付け乍ら
一気呵成に描き切る。

「門閥制度は親の敵でござる」と言ったのは『福澤諭吉』。
その制度を守るために破壊者たる新政府に組することの皮肉。

冒頭の場面では、のちに死刑囚となり
戦いに駆り出される『政(山田孝之)』が、
妻の元へと悪路を突っ走る。
しかし、彼は旧弊に囚われている。

最後のシーンでは生き残った者たちが
軽やかに駆け出す。新しい時代に向かって。

共にアップになる、その足でも、
まるっきり異なる印象を鑑賞者に与える見せ方は見事だ。

ジュン一