「新発田藩新政府軍へ恭順までの日々」十一人の賊軍 Moiさんの映画レビュー(感想・評価)
新発田藩新政府軍へ恭順までの日々
感想
期待を持って映画館に向かう。東映のタイトルロゴも昔のままでオープニングを迎えた本作。話は1868年7月戊辰戦争時、越後地方新発田藩の奥羽越列藩同盟脱退、新政府軍への恭順を示した藩の政変時に発生した駆け引き的な局地事変を描いた話であった。
日本侠客伝、仁義なき戦いの脚本で有名な、笠原和夫氏の温めていたプロットを元に狐狼の血の白石和彌監督が映画化した。
出演俳優陣全員の文字通り身体を張った演技は素晴らしい。特に仲野太賀さんが目覚しい活躍であった。東映時代劇の復活を掲げて制作したという触れ込みであったが、正直な感想としては脚本が今一つの印象を受けた。賊軍十一人全員に焦点が上手くあてられておらず性格や個性を観る側に説明出来ていないように感じた。撮影もリアリティ重視なのは分かるが暗がりが多く演出なのか、アクションが優先され、勢いはあるのだが登場人物の顔のアップは余り無くカット割によるアップも限られた役者しか撮られていない。もっと十一人の個性をデフォルメした方が話が面白くなったと本当に感じる。笠原氏のプロットは話としては興味深く上手く制作すれば名作誕生を予感していたので真に残念である。
また配役と脚本の問題だと思うが、山田氏は始まりは素晴らしい滑り出しで期待を高めたが、主役級なのに役柄が脱走を繰り返し台詞も少なめで印象が薄い。小柳氏は役どころとしては面白かったのだが顔のクローズアップが余り無く印象が薄い。また松尾氏に至ってはもっと活躍するのかと思いきやすぐ爆死してしまう役どころである。尾上右近氏は役どころが町人賭博師役なのでそこそこ面白い役柄であった。野村氏、田中氏、一ノ瀬氏は見た目からして現代人そのもので申し訳無いが時代劇には合っていない印象を受けた。繰り返し言うが演技は本当に全員素晴らしいのだ。本作に大きな期待を賭けていたので残念で仕方がない。
本作を観た印象として21世紀の今時の日本人に江戸時代の日本人を演ずる事自体が難しくなってきているのかもしれない。出自そのものや社会的生活的に考えて見ても人が負う人生の苦労度が桁外れに違う。当然顔付きも変わる。例えば和装で山や道を走る。又は歩く。というこの簡単に感じる所作一つでも江戸時代と現代は違っていたような気がするのである。俳優さんは悪くないのだが、期待している顔付きがもっと眼光が鋭いというか、どうしようもないのだが気迫というものを感じられないのだ。気迫を劇中に感じたのは仲野氏、本山氏、松浦氏くらいの印象なのである。時代劇の制作期間は俳優陣を含めてそれなりに長く取らなければいけなくなってしまったようだ。残念だが自分には本作が合っていなかった。
🌟2.5