「迫力の「爆発」活劇で実感する仲野太賀の凄み」十一人の賊軍 ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
迫力の「爆発」活劇で実感する仲野太賀の凄み
シビアなストーリーと爆発シーンの迫力、そして仲野太賀最高。たまたまドルビーシネマで観たがそれが大正解。そう思えるような、まさに活劇だった。
舞台は戊辰戦争さなかの新発田藩。城に押しかけた旧幕府軍の滞在中、彼らと鉢合わせしないよう砦で新政府軍を足止めする任務に駆り出された10人の罪人と数名の武士たち。歴史的にはダイナミックなシチュエーションだが、物語はこの砦を軸とした3日間の出来事というコンパクトな設定だ。
新政府軍も旧幕府軍も、あまりよい印象の描き方はされない。大きな対立軸の上での勝つ側の正義も、負ける側の悲哀も本作にはない。そこにあるのは、社会的ヒエラルキー上位の人間たちの思惑に命ごとひたすら翻弄され、それでも無罪放免を勝ち得るため、生きるために闘う賊軍たちの姿だ。
特に山田孝之の演じた政は、聾者の妻のもとに帰るために砦から逃亡してでも生き延びようとする(ただこれは、後でなつに指摘されたように独りよがりな判断ではあるのだが)。そんな彼が賊軍での共闘を経て、最後には一度放免されたのに、兵士郎を救うため砦に戻る。その心情の変化が、古典的な展開ではあるが心を打つ。
そんな政と対照的に描かれるのが、藩への誠を尽くそうとする兵士郎だ。任務を共にした入江たちと違い、溝口がはなから賊軍を放免にする気がないと知らされないまま、彼らと行動を共にする。そして溝口の真意を知り彼と対峙した時、11人目の賊軍になった。
仲野太賀はいわゆる二枚目に分類される俳優ではない(と私は思っていた)が、兵士郎になった彼は本当にかっこいい。まっすぐな人間である兵士郎としてのかっこよさはもちろん、俳優としても発声や滑舌、表情、殺陣などどこを取っても素晴らしく、あの適材適所のキャストたちの中で一際輝いていた。終盤のタイトル回収シーンでは鳥肌が立った。
(映画.comの作品紹介文では「11人の罪人たちが〜」と書かれていますが、違うんです罪人は10人なんです、罪人でない兵士郎が最後に賊軍を名乗って11人になるからアツいんです、ネタバレを避けたのかもしれないけどそこ大事)
彼ら賊軍のドラマを際立たせるのが、溝口という人間だ。
彼には家老として藩を守るために現実的な選択をするという彼なりの正義があるのだが、罪人たちには当然のように嘘の約束をするし、旧幕府軍を殿様に御目通りさせないために多数の民を切り捨てるなど、そのやり方はエグい。
しかし一方で彼は、一人娘を思う父親であり、殿様の扱いに苦労する管理職でもある。そんな、身近に感じる側面を持った人間が、一見理があるようにも思える信念のもとに顔色ひとつ変えず領民を殺し、刀で向かってくる兵士郎を銃殺する酷薄さを見せるから怖いのだ。
溝口は、阿部サダヲが演じるそんな多面性への、白石監督の信頼が伝わってくる役柄だった。薄寒い怖さを見せつけた後で、切腹し損ねる場面はちょっとコミカル。これぞ阿部サダヲ、という感じだ。
その他のキャストも、それぞれについて書けば切りがないほどよかった。
なつ役の鞘師里保のかっこよさにびっくり。ノロの佐久本宝、朝ドラ「エール」裕一の闇堕ちした弟! 印象変わりすぎ、俳優はすごい。爺っつぁんの本山力はすごい殺陣だと思ったら、東映剣会所属の方ということで納得。「侍タイムスリッパー」「碁盤斬り」「せかいのおきく」「仕掛人 藤枝梅安」などに出演歴あり。彼の殺陣で作品の雰囲気がかなり締まった。
松尾諭や駿河太郎、浅香航大など脇も贅沢。白石作品常連の音尾琢真を見つけた時の謎の安心感。玉木宏が演じたのは教科書的には山縣有朋だが、この頃は吉田松陰の「諸君、狂いたまえ」という教えに影響されて狂介と名乗っていたそうだ。ちょっと厨二……傾(かぶ)いてる感じでかっこいい。
演出面では、迫力の爆破シーンに圧倒された。映画館で見るべき臨場感ある音響。
官軍への痛快な一撃、仲間の劇的な死など、手に汗握るダイナミックな展開。犯罪者集団とはいえ、官軍の「投降すれば官軍に入れてやる」という言葉をあっさり信じてしまう素直さが悲しい。
溝口の不誠実さに怒った兵士郎は死に物狂いで数十人を斬り倒し彼と対峙するが、溝口は拳銃で勝負をつける。彼の冷酷さだけでなく、刀に刀で応える武士の倫理が重んじられる時代の終わりを象徴するようだ。
不誠実さの報いを娘の死という最もつらい形で受ける溝口だが、領民(ころりの病人以外)を守ったという事実は残った。ただしその平安の下には、無数の骸が転がっている。
ケレン味たっぷりのエンターテインメント活劇の骨格部分にある、ヒエラルキー上位のものに下位の人間の人生や命が翻弄され、足場にされる社会の構造。切羽詰まった状況でむきだしになる人間性。そこにはリアリティと普遍性がある。それが物語の深みを生み、私たちは賊軍に魅了されるのだ。
余談
白石監督のネトフリドラマ「極悪女王」で主役のダンプ松本を演じたゆりやんの演技は予想以上に(失礼)よかった。監督が本作で彼女をチラ見せしたかった気持ちもわかる。
こんにちは。
わかりやすい解説、勉強になる情報の数々、大変読み応えのあるレビューでした。
拝読できて感謝です。
私も山縣の名に引っかかったのですが、そんな背景があったのですね。
本山力さんの殺陣で雰囲気がかなり締まった→同感でした!
命の炎が燃え尽きる前に、一瞬だけ又燃え上がる!そんな美しさ儚さをも含んだ素晴らしさでした。
ゆりやんダンプはすごかったですね♪