「モブキャラ扱いではなく、一人ひとりの人生を浮かび上がらせて欲しかった」十一人の賊軍 jin-inuさんの映画レビュー(感想・評価)
モブキャラ扱いではなく、一人ひとりの人生を浮かび上がらせて欲しかった
牢で死罪を待つ10人の罪人たち。彼らにある提案が持ちかけられます。「決死隊として山の砦へ行き、数日間、官軍を食い止めろ。もし生き延びることができた者は無罪放免を許す」
罪人たちは引っ立てられるように、否応なしに全員砦へと連行されるわけですが、できればここは志願制にして欲しかったところです。このまま牢で死罪になるのをただ待つのか、それとも万に一つの可能性にかけて決死隊に志願するか。連行されるのと自分で志願するのとでは全く盛り上がり方が違います。残念。
寄せ集めの罪人軍団は全く統率が取れません。引率役の武士の言うこともロクに聞きません。こんなんで戦えるはずはなく、リアリティがありません。罪人軍団はただ行き当たりばったりに右往左往しているだけで、戦略も戦術もありません。そもそも銃など触ったこともないはず。元武士である爺っつぁんをリーダーに指名して、彼に統率させるべきではないでしょうか。残念。
侍殺しの政と火付けのなつ以外の8人は牢に入る前のシーンが全く描かれません。互いの会話の中で少し素性が明かされる程度。彼らがどんな人物でどんな罪を犯したのか、全く分かりません。そのため一人ひとりに感情移入できないし、せっかく壮絶な死を描いたところで、悲壮感がありません。ただのモブキャラの死に見えてしまいもったいないです。これが本作の最大の欠点ではないでしょうか。短くてもいいので一人ひとりにもっと焦点を当てて、その人生を浮かび上がらせて欲しかったです。スター俳優ばかり前面に立たせてしまうのは邦画の悪い癖ではないでしょうか。残念。
本作の主人公、人足の政(山田孝之)は口の聞けない妻に乱暴した新発田藩の侍を殺した罪を負っています。彼の恨みは新発田藩の侍だけ、その他はどうでもいい。隙あらば一人で逃げ出す。当初の政はそんなキャラです。それが「下郎どもっ!」と叫んで官軍めがけ爆弾を投げ下ろしたり、いつの間にか中心人物に。何度も逃げるチャンスがあったのにわざわざ戻ってきます。政の立ち位置がブレまくりです。自分を兄と慕うノロに情が湧くのは分かりますが、まさか新発田藩の侍である鷲尾兵士郎(仲野太賀)に友情を感じてしまったのでしょうか。山田孝之はいつもの仏頂面のぶっきらぼう演技で通しますが、彼の心の動きがよく分かりません。2大スターを前面に押し出す演出が鼻につき、山田孝之の「無敵のヒーロー感」が邪魔をしています。ただの人足には見えません。本作の登場人物たちは生きた人間と言うより漫画のキャラのようです。そもそも侍を後ろから刺殺したら捕まらずその場で手打ちになるのではないでしょうか。侍を殺すよりも傷を負わせただけにして、その恨みを持つ侍も引率役として砦に行くことにしたほうがよりドラマが生まれたのでは。残念。
身重の新妻がノコノコ戦場にやってくるのもどうでしょうか。武士の妻が足手まといになるような真似をするでしょうか。途中で「無罪放免」の約束が嘘であることがバレ、侍同士が仲間れしてしまいますが、必要でしょうか?一緒に最後まで戦い、生き延びることができてホッとした後に仲間割れしたほうがより非情感が増したのでは。全体的にウェットな演出が目につきました。もっとドライで悲壮な演出を期待しましたが、今の時代には無理なのでしょうか。あと、説明過剰なナレーションも不要だと思います。親切すぎ。残念。