「伝統的東映任侠映画の幕末編」十一人の賊軍 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
伝統的東映任侠映画の幕末編
慶應4年(1868年)に勃発した戊辰戦争。その一幕を飾った新政府軍と奥羽越列藩同盟の戦いのうち、新発田藩を巡る攻防にヒントを得た時代劇でした。白石和彌監督が、山田孝之、仲野太賀、阿部サダヲらの芸達者を擁してどんな作品になるのか楽しみにして観に行きましたが、結論から言うと伝統的東映任侠映画の舞台を、戊辰戦争に置き換えた作品と言う印象でした。それもそのはず、「仁義なき戦い」の脚本を担当した笠原和夫の原案を映画化したそうで、ナレーションの感じなんかは「仁義なき戦い」そのものでした。
奥羽越列藩同盟に加わりながらも最終的に新政府軍に”寝返る”ことになった新発田藩の話は、史実そのものではあるものの、それをヤクザ同士の抗争に見立てて組み立てられたストーリーは、中々面白かったです。ただ、”素人には手を出さない”のが建前の任侠の人達とは違い、阿部サダヲ演じる新発田藩の家老・溝口内匠に、奥羽越列藩同盟側との外交交渉のために農民の首を何人も刎ねてしまうというエグイことをやらせていたりと、任侠映画で感じるある種の爽快さとは逆に、権力側のどす黒さがリアルに感じられ、その辺はあまり好きな部類のお話ではありませんでした。
また、山田孝之演ずる政のキャラクター設定にも、今ひとつ同意できないものがありました。妻を新発田藩士に犯されたため、政はその新発田藩士を殺すことになり、罪人となります。当然新発田藩への恨みはあるものの、奥羽越列藩同盟を欺く方便として結成された決死隊に参加させられ、新政府軍と戦うことに。まあその辺はいいとして、新政府軍に寝返ろうとしたり、新政府軍に殺されそうになると再び決死隊に戻って戦ったりと、全く落ち着きがありません。事の起こりを考えれば致し方ないとは思うものの、キャラクターとしての政の魅力がこうした右往左往で半減してしまった感じがして、非常に残念でした。
ただ、幕末の空気感は良く表現されており、その辺りは期待通りの”時代劇”でした。そして何よりも出演者の演技が素晴らしく、特に仲野太賀のアクションが注目でした。阿部サダヲは相変わらず非情というか、サイコパス的な役をさせると一級品だということを再確認しました。
そんな訳で、本作の評価は★4とします。