劇場公開日 2025年9月19日

「映画「宝島」・・・原作に懐いたイメージを軽く超えてくる凄み!」宝島 椿六十郎さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 映画「宝島」・・・原作に懐いたイメージを軽く超えてくる凄み!

2025年10月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

知的

 2019年3月に記した小説「宝島」の感想で有る。

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 160回直木賞受賞作品。

 物語の始まりは1952年、日本本土は占領を脱したが、沖縄は未だ米軍の占領状態が続き、朝鮮戦争からベトナム戦争にかけてアメリカのアジア戦略の拠点とな土地の収用が続いている時だ。この頃、沖縄では「戦果アギヤー」と呼ばれる、米軍倉庫を狙った窃盗団が暗躍し始める。主人公達は、コザ(現在の沖縄市)の「戦果アギアー」に身を置く3人の若者。リーダーの「オンチャン」以下強い絆で結ばれた若きアウトロー達である。話は、「戦果アギアー」の最後の「闘い」でリーダーを失い、一人(リーダーの弟レイ)はアウトローとして「闘い」続け、もう一人のリーダーの恋人(ヤマコ)は教師をしながら復帰闘争に身を投じる。そしてリーダーの片腕だったグスクは警察官となる。この3人の青春期を、1970年のコザ暴動を経て復帰までの戦後史と共に描く。

 沖縄のねっとりとした空気感の中で押さえつけられる若者のエネルギーの暴走がまるで映画を見ているように広がる。そして、私たち本土の人間にとって沖縄の占領統治というものがどんなに過酷なものだったかが突きつけられる。瀬長亀次郎・屋良朝苗そしてキャラウェイ高等弁務官等実在の人物を配して、歴史との連関を際立たせる手法も巧みだ。

 日米の思惑に翻弄されながらも力強く生きるウチナンチューの原点を見る思いがする秀作である。

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 さて映画化作品はどうであったか?描いていた想像を軽く超える秀作であった。

 先ず、「ねっとりとした空気感」・・・、例えば北野監督の「ソナチネ」(北野映画の中では大好きな作品だが・・・)などは、かなりのハード・バイオレンスではあるが、現代に近いせいか?沖縄らしい、明るいリゾート感が漂っていた。だが、本作では全くそれが見られない。恐らく若い観客の中には・・・特に原作を読んでいないと・・・、それがかなりの違和感となるかも知れない。しかし、復帰前の沖縄の空気感はこんな感じなのだろう。そこには大和である事は勿論、琉球で有る事も失ってしまった人々の切なくも力強い営みが有った。物語の中に出てくる、コザの暴動も、小学校に米軍機が墜落した事故も、VXガスの放出事故も、米兵がおこした数々の事故や事件がうやむやに処理されて来た事も全て事実で有る。更に、これも若い人には信じられない事かも知れないが、米軍基地から物品を盗み出し人々にタダで与えたり安価で売ったりする「戦果アギヤー」と呼ばれるアウトロー集団や、琉球武術を駆使したストリートファイター系の愚連隊等の存在も事実であり、其が戦前には無かった沖縄の暴力団に「進化」して行くのも事実である。

 確かにそういった歴史的事実と主人公達の歩んで行く物語の連関を描くのは難しいが、占領統治という不条理の中で人はそれとどう対峙し、或いは折り合いをつけるのかを思うと、それぞれが全く別々の道を選択してもなお、それぞれの選択に一定の説得力と共感を感じて仕舞う処がこの映画のキモである。

 若い人が、戦後、沖縄が歩んできた道を辿る切っ掛けとなれば良いと思う。そして、最後に・・・本土復帰運動をしているヤマコが訪れた、彼女の友人が勤める特飲街のお店に「本土復帰反対」のビラが貼って有ったことも沖縄の気持ちの多様性を描いていて興味深いシーンであった。

椿六十郎
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