「史実と創作の絶妙なアンサンブル」宝島 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
史実と創作の絶妙なアンサンブル
ここ1世紀のあいだに、ヤマトンチュはウチナンチュを三度裏切ったと言われる。
第一の裏切りは、アジア太平洋戦争末期の1945年。敗色濃厚の中で軍部が掲げた「一億総玉砕」を、沖縄は文字通り実行した結果、住民の4分の1を失う大惨禍を経験した。だが沖縄戦が終結した6月23日からわずか二カ月足らずの後、2回の原爆投下とソ連参戦に屈し、大日本帝国は「一億総玉砕」どころか白旗を掲げて降伏した。
第二の裏切りは1952年。日本は占領を終え、”形式的に”独立を回復したものの、戦場とされた沖縄は切り捨てられ、米軍施政下に置かれたままだった。
第三の裏切りは1972年。沖縄は念願の“祖国復帰”を果たしたものの、県民を蹂躙した米軍の駐留はそのまま温存された。
まさに裏切りの連続である!
本作は、第二の裏切りである1952年を起点に、祖国復帰目前の1970年に勃発したコザ暴動を最大のクライマックスに据え、沖縄の復帰までを描いた作品でした。と同時に、その時代を生き抜いた若者たちの青春群像劇でもありました。
まず心を奪われたのは、当時の街並みの再現でした。米兵向けに「特飲街」と呼ばれた繁華街は、空気感を含めて圧倒的なリアリティを放っていました。ホステスやアメリカ兵、地回りが入り乱れる雑踏は、まさにその場にタイムスリップしたかのようでした。
また、創作でありながら史実を巧みに織り込んだ展開も印象的でした。ヒロイン・ヤマコ(広瀬すず)が勤める小学校に米軍機が墜落する事故は、1959年の宮森小学校米軍機墜落事故を下敷きにしたと思われます。さらに物語終盤を左右する毒ガスの存在も、1969年に実際に嘉手納基地内でサリン漏出事故が発生したことが報じられており、そこから着想を得たものでしょう。米軍基地にサリンやVXガスが保管されていた事実を踏まえれば、沖縄で反基地運動が高まったのも当然です。
そしてヤマトンチュや米国に対するウチナンチュの複雑な感情表現も秀逸でした。裏切られ、蹂躙された相手に好意を抱けるはずはありません。しかし現実には米軍関連産業で働く住民が数多く存在したのも事実。特飲街のバーに「返還反対」のビラが貼られていたのは象徴的でした。米軍を糧とする人々が多い一方で、本作の見せ場であるコザ暴動では、バーで働くホステスのチバナ(瀧内公美)までもが鬱憤を爆発させ、観客に強烈なカタルシスを与えていました。
俳優陣の熱演も光りました。主人公グスクを演じた妻夫木聡は、かつて米軍から食糧を奪い配給する“戦果アギヤー”の一員で、リーダーのオンちゃん(永山瑛太)の行方を追うため警官となりました。彼がウチナンチュ代表として、米軍高官アーヴィン・マーシャル(デリック・ドーバー)や、通訳の小松(中村蒼)らとの駆け引きには凛々しさが漂い、抑制的な立場であった彼ですら、コザ暴動では激情を爆発させて胸のすく場面を生みました。
一方、同じ“戦果アギヤー”からヤクザの道に進んだレイを演じる窪田正孝も圧巻。優しさと怒りを同居させた人物像を見事に体現していました。やがて二人は対決するものの、共にオンのもとで働いた仲間であり、オンの恋人ヤマコを交えた青春の記憶は彼らの絆そのものでした。ついにオンの行方が判明する場面は、物語全体のハイライトであり、観客に深い衝撃を与えました。
以上、物語、俳優、演出、映像、音楽どれをとっても非常に高いレベルの作品でした。
そんな訳で、本作の評価は、「国宝」に続いての今年2作目の★5.0とします。
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