「コンフィデンスマンで地面師でマルサの男!」アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
コンフィデンスマンで地面師でマルサの男!
『カメラを止めるな!』がミラクルを起こして一躍時の人となった上田慎一郎だが、その後の作品はいまいち精彩に欠け、どうしても一発屋のイメージが…。
あの練りに練られた快作はやはり面白く、その後の作品も期待や比べてしまう。
何だかM・ナイト・シャマランのキャリアと似ている。
シャマランも『シックス・センス』の大成功の後、賛否両論。『シックス・センス』がキャリアの頂点とは言いたくないが、あれを越えるのはなかなかに難しい。
でも、『シックス・センス』の後の作品だって面白いのはある。
上田慎一郎もそう。『カメラを止めるな!』の壁は高いが、それほどのインパクトは無いが、『スペシャルアクターズ』だってなかなか面白かった。他は結構賛否多いみたいだけど…。
あのどんでん返し劇、『カメラを止めるな!』より前に発表していたらあちらが話題になっていたかも?…なんて。
そして今回ズバリ、『スペシャルアクターズ』より面白かった。『カメラを止めるな!』以降、出色の出来。
ちゃんと面白いものを作る。才はある。後は見る側が『カメラを止めるな!』と比較するか否か次第。
強いて言えば、オリジナル作品だったら…。
韓国ドラマの映画リメイクだが、しっかりと面白い。もう一つの“コンフィデンスマンJP”。
元ネタの韓国ドラマは未見だが、内野聖陽演じる主人公はマ・ドンソク兄貴。
全然イメージ付かない。だって…
真面目に生きてきたのに…。
税務署職員の熊沢は不運が続く。
正義感の強い部下・望月に促され、脱税疑惑のある大物・橘に接触し、こちらに否は無かった筈なのにひと悶着。
上司の計らいで何事も無く…と思っていたら、上司に連れられた先は、橘の元。
謝罪を要求される。上司は橘の息がかかっており…。
信念貫く男だったら拒否しただろうが、熊沢は…。挙げ句、橘に頭からワインを掛けられてしまう。
頭を上げた熊沢はそれでも笑顔を返すしかなかった。
そうするしかなかった。家族や生活がある。
家庭でも妻や娘の尻に敷かれ…。
調子の悪い車を買い換えたい妻。頼まれ、SNSで注文。
電話やり取りで指定された場所で代理人から車を確認し、入金。
だが、代理人も車もその場から姿を消した。
騙された!
電話の主は双方に巧みに。
仕事ではコケにされ、プライベートでは金を騙し取られ…。
ついてない、冴えない、うだつが上がらないの三拍子。
だから元がマ・ドンソクなんてイメージ付かない。
親友の刑事に助けを乞う。
意外やあっさり探し出す。
最近出所したばかりの天才詐欺師、氷室。若く、イケメン詐欺師なんてその界隈では呼ばれている。
氷室を監視していたら、あちらから接触。
やはり一筋縄ではいかないその世界の人間。監視していた事も熊沢が抱える問題も承知。
返金と「ゴメ~ンね」。
許せない熊沢に、氷室はある提案。
橘を詐欺にかけ、脱税分の10億円以上を騙し取る。その代わり、被害届は取り下げ。
無論、了承などしなかった熊沢だったが…。
国税局に栄転が決まっていた望月だが、突然白紙に…。言うまでもなく、奴の圧力。
熊沢は再び橘の元を訪ね、望月の栄転取り消しを考え直して欲しいと頭を下げ懇願。
了承する橘。誰かに嗅ぎ回れるのは勘弁。
そう言う橘は語り出す。数年前にもいた。俺の周りを嗅ぎ回ってた奴。
あいつ、どうしたっけ? 名前、覚えてないや。
熊沢は忘れない。同期で親友だった。橘の脱税を摘発しようとしたら、収賄の容疑を掛けられ、クビに。周りと同じく保身に回ってしまった熊沢は助けてやる事が出来ず。そして同期は飛び降り自殺した。
再び顔を上げた熊沢は笑顔を絶やさず。
しかし、その腹は決まっていた。
熊沢は氷室の元へ。
何か、怒ってる…?
開幕して約30分、ここでメインタイトル。話も目的もターゲットも決まった!
氷室に連れられ熊沢は、スリに遭う、詐欺に遭ったSNSやチラシを知る、当たり屋に遭う。
皆、氷室の仲間。元女優のスリ、メカニックや偽造のプロ、当たり屋。
さらに、氷室と訳ありの闇金母娘も引き込み。
橘の情報収集。橘は土地を欲しがっている。土地を買って巨大複合ビルを建て金儲け。
詐欺の方法も決まった。地面師詐欺!
詐欺のプロたちによる大博打が華麗に…いや、トラブル続出?!
各々その筋のプロだが、個性的過ぎて時々チームとしてバラバラ。
何より一番の問題は、熊沢。詐欺のド素人で、性格はド真面目。詐欺に向いてない…?
そんな熊沢に大役。餌になる。
橘は高級クラブのシークレットルームでビリヤードをするのが趣味。
闇金母が手を回し、ルームへ。顔を知られてる事を活かして接触。ビリヤード勝負をし、そこで土地の話を…。
怪しまれずに、自然に。普段の冴えない雰囲気から一転、実はもう一つの顔を持っているという芝居をしなければならない。
しかし、熊沢はビリヤード未経験者どころか、そんな度胸も無い。
ならば、特訓特訓、役に成りきれ。
熊沢。を詐欺師プロデュース!
真面目で平身低頭。気弱でびくびくおどおど。
内野聖陽のリアクション王のようなコメディ演技が面白い。
全くの足手まとい役立たずから、ビリヤードをマスターし、次第に度胸も見せ、いっぱしの詐欺師になっていく様の巧さ。
望月に同期の死を話す悲しみと悔しさの熱演には心揺さぶられた。
脚本から製作に携わり、内野聖陽ショーとでも言うべき巧さが光る。
近年『ゴールド・ボーイ』や『ドライブ・マイ・カー』で悪役や不遜な役で印象残す岡田将生が本作でも。彼もイケメンより個性派だ。
演技に定評ある川栄李奈や森川葵も魅せるが、ちと出番少なかったのが残念。各々がスキルを活かして華麗に活躍するチームプレーがちょっと乏しかった気も…。
出番は僅かでも皆川猿時の人情味ある刑事は良かった。
皆の巧演や熱演を受けて、小澤征悦が憎々しさ爆発。
無名素人役者で巧みだけどちょっと緩い作品を撮ってきた上田慎一郎だが、一流役者を揃えて上々のエンタメを撮れる事を証明。
上手く餌に掛かり、土地も下見。気に入る。
神社のような広い敷地で、古ぼけた屋敷を祖父から譲り受けた占い師の孫娘…なんて、『地面師たち』であったような…?
後は司法書士も同席させ、正式な契約。印や現なまやり取り。
相手の“罠”もクリアし、全て順調…そんな時、
些細な事から詐欺である事がバレる。
橘は騙されてるフリをする。印を捺した時、一網打尽に捕らえる。
手玉に取ったつもりが、こちらが手玉に取ってやる。
雲行きが怪しくなる中、決行日数日前から熊沢と連絡が取れなくなる。恐れをなして逃げ出したか…?
しかし、熊沢は戻ってきた。
騙し通せるのか、返り討ちに遭うのか。
いよいよ決行の日…。
ビルの一室で、橘は騙されたフリして手続き。
部屋やビルの外には手下どもが待機。
熊沢はそれに気付き、連絡しようと思ったら、手下どもや熊沢の上司が奇襲。そこに、熊沢を怪しんでずっと尾行していた望月が割り込んでくる。
ゴタゴタあって、望月を連れてその場を脱出。連絡をする。
連絡を受けた氷室らは印を捺す直前に理由をつけて退室。
しかし、橘は逃がさない。警察に通報。
氷室らは警察に捕まり…。
勝ち誇ったように笑う橘は改めて金を確認したら…、
偽札!?
一体何処で、どうやって!?
現なまやり取りの際、入札機で計上。
入札機の下に穴を空け、そこから本物と偽札をすり替えていた。
本物は段ボール箱に詰めて運び出し。熊沢と望月がビルの外で手下どもに追われた時、ぶつかって道を防いだ配達業者が伏線になっている。
伏線は他にも。橘の通報で駆け付けた警察。声をよ~く聞くと、実は…。
『コンフィデンスマンJP』ほど鮮やかではないが、どんでん返しは幾つも。
実は橘の傍に、こちらの内通者が一人。まさかの人物で、まさかの正体。だから“7人”。
どんでん返しは敵だけにじゃなく、味方にも。
氷室が熊沢を詐欺に引っ掛けたのは偶然だったのか…?
熊沢が橘に復讐しようとしていたのを氷室は知っていた…?
それを利用して…?
何の為に…?
氷室が熊沢の夕食に招かれた時話したある芝居の話。
ある男の子に刑事の父がいて、弁護士の母がいて。刑事の父は悪党を捕らえようとしたが逆に罠で濡れ衣を着せられ服役中。弁護士の母は助けてやる事が出来ず…。その時、息子は…?
何ともセンチメンタルでベタな“作り”不幸話。
だけど、そういうのが本当の話だったりする。
多くの人たちが苦しめられ、一矢報いたかった。
その絶好のチャンス。
一世一代の復讐と大逆転。熊沢や氷室、その他苦しめられた皆の大一番。
見事、大勝利。痛快スカッと!
大金を騙し取られ、敗北し、激しく動揺する橘の前に、熊沢が訪れる。
愚行を続ける橘を、熊沢は…。それは妄想だった。
納税を報告。
コンフィデンスマンで地面師でマルサの男!
(正確には“マルサの男”ではないんだけど、言葉に箔を付けたかったので…)
熊沢は最後まで熊沢だった。
またそれは、どんでん返しエンタメを作り続けていくであろう上田慎一郎の信念にも見えた。