「半世紀前の言論・思想統制の悲話を今描く意義」流麻溝十五号 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
半世紀前の言論・思想統制の悲話を今描く意義
台湾の独裁政権が言論弾圧し密告も奨励していた白色テロ時代(1947~1987年)を扱った映画として、比較的最近では2021年に日本公開された「返校 言葉が消えた日」もあった。暗い時代を真摯なドラマやサスペンスとしてではなく、超現実的なホラー作品としてエンタメ化した姿勢に驚かされたが、この「流麻溝十五号」は流刑地の島に送られた女性政治犯たちを描くシリアスなヒューマンドラマだ。
劇中で話される言語の違いが、字幕では独特の括弧使いで区別されている。北京語、日本語・英語は括弧なし、台湾(ホーロー)語は〈 〉、台湾客家語・原住民族の各言葉などは[ ]という具合。プレス資料にはこんな説明もある。「映画内で描く1950年代は、中華民国に統治されていた時代なので公用語として、北京語を話すことが求められた。しかし、日常では台湾(ホーロー)語/台湾客家語/原住民族の各言語に加え、日本語も使用されていた」。使い分けの細かなニュアンスまで読み取るのは難しいが、囚人同士が私語で日本語で会話するシーンなどでは単純に親近感を覚えつつ、しかし日本統治時代からまだ10年もたっていない頃だからと複雑な思いもする。
実際に緑島の施設に収監されていた女性たち6人の証言をまとめたノンフィクション本が原作。彼女たちが語った過酷な体験を、周美玲(ゼロ・チョウ)監督が3人のキャラクターに集約して2022年に映画化した。驚かされるのは、製作を支援する募金活動により1200万台湾ドル(現在のレートで約5600万円)以上の資金が集まったことだ。白色テロ時代が終わってからすでに40年近く、記憶を風化させず若い世代に伝える映画の意義が、台湾の人々に広く共有されたのだろうと想像する。
悲しくも美しいラストシーンには、作り手たちの願いと祈りが込められているようで、胸が締めつけられる思いがした。