「人生における「成功」とは?」まる tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
人生における「成功」とは?
何気なく描いた「まる」が絶賛されて成功を収めるという話から、「世にも奇妙な物語」のようなシュールなファンタジーを期待したのだが、そうした不条理な面白さが一向に転がり出さない。
「まる」を100万円で買い取ると申し出たブローカーは、それっきり姿を見せないし、主人公が、たまたま画廊を訪れなければ、そのまま注目を浴びることもなかっただろうし、町中ですれ違う人に騒がれても、マスコミから「社会現象になっている」とか「ノーベル平和賞候補になっている」とかインタビューされても、取って付けたような薄っぺらい描写ばかりで、とても主人公が成功したようには感じられない。
主人公も、主人公で、「騙されてるのか?」とか「夢なのか?」といった反応をするでもなく、すんなりと事実を受け入れているのだが、この辺りは、「成功」の前後のギャップを、もっと大袈裟に描いても良かったのではないだろうか?
主人公が描いた「まる」にしても、主人公だけがその価値を理解できず、主人公以外の人間は、誰もが評価しているのかと思っていると、アパートの隣人の売れない漫画家は、それを「誰でも描ける単なる丸」と見抜いており、「まる」に価値を見い出す人間とそれ以外の人間に、どのような違いがあるのかもよく分からない。
やがて、主人公が新たに描いた「まる」を、ブローカーが買い取れないと言い出したところで、主人公が、最初に、無欲の状態で描いた「まる」だけが価値を認められ、それ以外の「まる」は無価値なのかと思っていると、主人公の新作の個展が成功して、そういう話でもないことが分かる。
だったら、有名画家に搾取されることにも、世間の役に立たない「20%の蟻」であることにも無頓着だった主人公が、世間に認められ、社会的な成功を得ることで、欲にまみれ、搾取する側へと転じていく物語なのかと思っていると、主人公は、自ら成功を手放すので、そういう話にもならなかった。
吉岡里帆演じる画家の同僚も、柄本明演じる茶道の先生も、森崎ウィン演じるコンビニ店員も、綾野剛演じる隣人の漫画家も、皆、共感性が高く、含蓄のある言葉を口にするのだが、どれも、この映画の主題であるとは思えないし、むしろ、風呂敷を広げ過ぎた感じすらする。
結局、観終わった後に思ったのは、人生の「成功」とは、裕福になることでも、社会的地位を得ることでもなく、「好きなことをして食べていけること」なのではないかということだった。