「“キング”に相応しき者」ライオン・キング ムファサ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
“キング”に相応しき者
ディズニーアニメ実写映画の世界興収1位に君臨している“超実写・百獣の王”。
アニメ映画では(ビデオ映画として)続編が作られたが、この“超実写版”は昨今のハリウッドの流行り。
プリクエル。時を遡り、現王シンバの父で偉大な前王だったムファサの若き日を描く。
2時間ずっと過去の話ではなく、現在のパート=前作の後日譚も含まれる。
製作側は過去と現在が交錯する『ゴッドファーザーPARTII』のような構成を意識したとか。が、あちらのように両パートがバランス良く描かれるのではなく、断然過去パートの方に比重がある。まあ、本作の現在パートは導入部としては良し。
シンバとナラの娘、キアラ。お転婆で好奇心旺盛。お馴染みティモンとプンヴァが子守り役。
未来の女王だが、まだまだ雷が怖い。そんなんで父や祖父のような偉大な王になれるのか…?
案ずる事はない。話してやろう。
お話の達人、ラフィキが語り出す。
シンバの話は皆知っているが、その昔出会った名もなき一頭の子供ライオンの話…。
後に偉大な王となるムファサだが、幼き頃は王族ではなかった。
両親とサバンナを自由に生きる“平凡”なライオン。
全ての動物たちが平和に生きる理想郷=“ミレーレ”に憧れ、信じていた。
ムファサ~シンバ~キアラ。好奇心旺盛な性格は血筋。
久々の恵みの雨。しかしそれは洪水を引き起こし、飲み込まれたムファサを助けようとして両親は…。
そのままムファサは流されてしまう。
知らぬ遠い地に流れ着く。
川岸で助けを求めるムファサ。
そんなムファサを見つけ、助けたのは…
スカー…じゃなくて、タカ。
…タカって? スカーじゃないの…??
まあ、そんな勿体ぶる事もない。ムファサが川岸にしがみつき、タカが爪を立てて助けようとする。
二頭の出会いが最期となるあのシーンを彷彿させる難い演出。
タカはムファサを群れの元へ。タカは王族ライオンの王子だった。
寛容な母妃、ムファサが勝負事でタカに勝った事により群れの一員に。
が、血筋を何よりとする父王は野良のムファサを邪険にする。
兄弟が欲しかったタカ。“兄弟”が出来て大喜び。
“兄弟”とされていたが、血の繋がりはナシ。性格も陽気。
一体、彼に何があった…?
“タカ”という名も含め、本作のメインの一つである。
危険が迫る。
凶暴なホワイトライオン族と遭遇。
この時、タカが恐れから逃げ出し、母妃がピンチに。ムファサが助ける。
それがタカの負い目に…。
ムファサは群れに危険を訴える。
やがてホワイトライオン族が群れの前に現れる。
リーダーはキロス。全て支配下に収めようとする凶悪なホワイトライオン。
無慈悲な襲撃に父王たちは…。
襲撃の寸前、ムファサとタカを逃がす。
二頭が生き延びている限り、そこが“王国”。血筋が途絶える事はない。
ムファサはかつて命を助けてくれたタカの為に。
二頭の果てしなき旅が始まる…。
ここからが本作のメインと言えよう。
二頭の旅。目指す所。幻の地、ミレーレ。
旅は苦難だが、二頭の掛け合いも絶妙。
ホワイトライオンの追っ手も迫る。怯えるタカを勇気付けるムファサ。崖っぷちに追い詰められた時、タカの思いきった“飛び降り”で危機を脱出。
助け合い。本当にこの二頭に何があった…?
旅は出会いでもある。
別の王族ライオンの生き残りの娘、サラビと出会う。その家臣、ザズー。
異端の存在として仲間から追放されたラフィキ。
ライオン3頭と鳥とマンドリル。種族は別だが、後のプライド・ランドの長たち。ムファサとタカだけではなく、彼らの出会いと始まりの物語でもある。
仲間が増えた事により、旅も愉快に。
導くラフィキ、お喋りなザズー。
ある感情も芽生える。タカはサラビに…。それを知ったムファサは間を取り持とうとする。が…
再びホワイトライオンの襲撃。窮地のサラビをムファサが守るが、タカが守った事にする。
その時気を失っていたサラビだが、無意識の中で聞こえた声は…。
二頭の間にこそ芽生える。
それを知ったタカ。故郷も追われ、王位継承の座も失い、想い寄せた相手までも…。
ムファサがいる限り、自分は…。
己の暗部へ足を一歩踏み入れた。密かにキロスらと接触。
キロスはムファサによって息子を失った。タカは父を失った。互いに失った存在を補え、憎む相手も同じ。
信じていた者の裏切りは、最大の危機を招く…。
追っ手、襲撃、雪山、苦難の旅を乗り越え、遂に辿り着いた。
ミレーレ。
他のライオンたちや多くの動物たちが共存する、動物たちの真の王国。
だが、そこにタカの手引きによってキロスたちが…。
この王国も支配しようとするキロス。
ムファサたちが危機を招いたと動物たちから非難。
ムファサは乞う。助けと共に闘う事を。
この時のムファサのスピーチが良かった。
一頭だけなら非力。が、皆が力を合わせれば…。
現在のディズニーの象徴の多様性ゴリ押しメッセージに聞こえるかもしれないが、動物たちのリアルでもある。
百獣の王と呼ばれるライオンだが、単体ではそんなに強くない。一対一でゾウに勝てる筈がない。キリンやカバやサイにも敵わない。バッファローや時にシマウマにも負けるという。
助けを求めるのは弱さではない。寧ろ自分を認め、知り、相手を信じる勇気と強さだ。
ディズニーアニメの“超実写版”はこれで3作目。
『ジャングル・ブック』に驚き、前作でまたさらに驚き…。
しかし人間というのは罪な者で、見慣れてくると驚きと感動は薄れる。
さすがに前2作ほど目を見張るものはなかったが、それでもやはりフルCGの超リアル描写は圧巻。
序盤、幼きムファサとタカの駆けっこ競争の疾走感。
前作には無かった水や洪水。
特に様々な動物たちが入り乱れるクライマックスの闘いの迫力は前作超え。
作品を彩る音楽は、現ディズニー音楽の“キング”、リン=マニュエル・ミランダ。ハンス・ジマーやエルトン・ジョンのオリジナル音楽をアレンジしつつ、彼ならではの新ナンバーも。軽快なムファサとタカの出会いの歌、ムファサとサラビのしっとりとしたデュエット、妬み憎しみが積もり出すタカの独唱、キロスの“バイバイ”。
キロスが見事な歌声を披露。日本語吹替は渡辺謙。トニー賞候補に上がった実力が思わぬ所で…!
監督も思わぬ人物。バリー・ジェンキンスなのが驚き…! 『ムーンライト』などの作風から一変。
この人が監督を務めた事により、ただアニメ版の話をなぞっただけの前作よりドラマ性はアップ。エンタメも撮れる事を見せ、評価や手腕は賛否あれど、作る必要の無いプリクエルにならなかった。
しっかりと補完や繋ぎの物語にもなっている。
キロスとの決着。奇しくも両親を失った水の中。自身のトラウマを乗り越えたと言えよう。
まさかの再会。ちと蛇足にも感じたが…。
誰もが気になるタカとの決別。キロスとの闘いの中で複雑な感情に押され、ムファサを助ける。その時、顔に傷を…。
また助けてくれた事は嬉しいが、お前の邪心が皆に危険を招いた。もう二度とその名を呼ぶ事はないだろう。
ならば、こう呼べ。“傷(スカー)”と…。
闘いの中で崖が崩れ、地を見渡せる頂が。
出会いと始まりの物語であり、プライド・ランド誕生の瞬間。
皆が言う。我らの王!
ムファサは拒む。自分は王などではない。
皆の声を聞け。皆が望んでいる。
王に成る者は、血筋などではない。相応しい者。
自分は何者か。何者になれるか。
数奇な運命に導かれ、その座に就く事は決まっていた。
雄叫び。
それは代々続く。
“キング”として。
吹替の筈なのに、開幕に英語音声…?
ああ、そうか。追悼ジェームズ・アール・ジョーンズ卿。