「室井慎次の生き方としては納得」室井慎次 生き続ける者 イナヅマゴローさんの映画レビュー(感想・評価)
室井慎次の生き方としては納得
前後編、間を空けずに観た。というのも、前編を見にいくかどうしようか迷っていてなかなか見にいく気にならなかったからだ。
踊る・・・は世代だし、もちろん大好きな作品である。が、正直、劇場版2のあとは全くと言っていいほど内容を覚えていない。面白かったという印象もない。加えて、社長が変わってからのフジテレビが「過去の栄光を焼き直す」ことに躍起になり、過去のヒット作の続編、リバイバルに一生懸命な姿がなんだか・・・と思ってしまっているからだ。
で、結論。観てよかった、というのが素直な感想である。
細かい点で納得いかないことは多々あるし、その辺りは他の方もあちらこちらで指摘していて、まさに同感なので(タカの恋愛とか、死体遺棄事件の経過とか、村人との対立とか)私としては割愛することにする。
私が本作を見てよかったと思ったのは、「踊る大捜査線でありながら踊る大捜査線ではない(どっちかというとこれは北の国からじゃないかな、と思うくらい)」が、「室井慎次のその後としては非常に納得感があった」からである。
国の中央、ど真ん中で様々なしがらみと不自由と、政治的な思惑、納得のできない忸怩たる思いを味わってきた室井が、個人がどんなに戦っても国や組織に勝つ、変化をもたらす術などないことを悟り、残る人生を何に捧げたらいいのかと考えた。結果、人里離れた郷里(の近く?)で犯罪関係者の里親となる、という設定に、納得感しかなかったのである。
これは主要な制作者が、室井と同じような年齢であるからこそできた設定であり、50、60をすぎて自分の余命について考え始めている人たちが制作しているからこそのリアルな感覚を室井に委ねているのだと思われる。
里子との関係に多くのシーンを割いていたが、結局、組織は変えられなくても、本当に身近な、身の回りのことを変えることは不可能なことではないし、でも実は、それこそが世の中の変化をもたらす唯一の方法なのだという事実を教えてくれている気がした。
室井が生涯未婚者であったことも大きいだろう。
一方で、この国ではトップ=首相が変わったところで結局組織なんて、政治なんてそうそう変わらないし、結局国民次第だよ、ということも暗示しているように思えるので、その意味では罪深い。
すこし話が逸れたが、この本庁と所轄、という組織の構造の中で物語を組み立ててきた「室井さんの踊る」が、まったく反対の、家族という超私的単位で締め括ったという点において、見事だと思ったし、個人的に私は大好きだ。
踊る大捜査線が見たくて見に行った人は、なんじゃこりゃと思う可能性は高いと思う。
ただ、室井さんという、一度は権威・権力をまとったインテリの人生の締めとしては、これが最適解だったのではないかなと思っている。
ラスト10分はちょっと雑じゃない?とは思ったが、柳葉氏が「室井を殉職させてほしい」と早期から訴えていたと自ら暴露しているので、ようやくその希望が受け入れられたのかな、という印象でもある。
とはいえ、本筋の青島刑事の場合、こうはいかないよなあと思うので、やはり警察内部の「踊るらしい」お話になるんでしょうね。期待半分、不安半分、その終焉を見届けたいと思います(でもさすがに次のワンターンできちんと締めて、本当の最後にして欲しいです)。
最後に、かつてのスリーアミーゴスの役割を、本作では一人で担った矢本悠馬氏は素晴らしかったと讃えたい。
ご意見ほぼ完全一致です。
全く本当にそう思いました。これ、ちょっと頷きかねるところもあるけど、物語の骨格、一番大事な部分は納得できるわ、と。
矢本氏の頑張りと成果も。頑張って勉強してね、と笑