「庇護と支配、リスペクトと服従」聖なるイチジクの種 かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
庇護と支配、リスペクトと服従
イランにおける国家権力と女性との関係を、家長である父と、妻娘に投影して分かりやすく映画にした感じ。
男は、弱くて劣ったものである女性を庇護し、良い暮らしをさせるために、外部のあらゆる敵と戦う。その代償は女たちからのリスペクトと自分への服従。
その女性達が男と対等な者として自己主張し始めたら。
リスペクトと服従を拒否し始めたら。
一転して恐ろしさを見せつけて力で支配下に置こうとする
イマンの本性を知った妻と娘は抵抗し、結託して彼をあえて崩れそうな場所に誘い込んで落下させる。
「父」とともに葬られた銃は暴力の、指輪はイスラム教的家父長制の権威の、分かりやすいメタファーだろう。
かくあれかし、というラストのよう。
映画はここで終わるが、ストーリーは終わらないと思う。
強権をふるう父を葬ったは良いが、妻と娘たちはこの後どうするのだろう。
今まで当然のことと受け取っていた良い生活は、父がもたらしたものだ。
彼女たちはこの瞬間から自分で自分を守り、食わせていかなくてはならない、茨の道なき道に突入したのだ。
専業主婦と世間知らずの若い娘たちには想像もつかないような、とんでもない苦難の予感しかない。
体制の権威を葬るということは、そのおかげで受けてきた恩恵も当然に手放すことだが良いんですよね、という覚悟を女性たちに問うているようにも感じる。
イマンが良心を犠牲にしてただ家族のためにと苦悩しながら今の仕事にしがみついているのを娘たちは知らない。パパを汚いとか非道だとか罵るけれど、パパがそうやって稼いだお金で良い暮らしをして大学にも行っている自分に対しては何も思いが及ばない娘たちに違和感があったが、娘たちの世間知らず、思慮の浅さを際立たせるための演出だったのかもと思ってしまった。
ちょっとズルくないですか
前半が硬派な社会派ドラマ、後半はファミリーホラー
テンポが良いとは言えず、大分冗長な感じがしました。