「展開の意外性に唖然、そして最後は納得。」聖なるイチジクの種 yurimaripapaさんの映画レビュー(感想・評価)
展開の意外性に唖然、そして最後は納得。
すこぶる真面目な映画だった。
初めは、政治的意見や価値観の違いで家族が壊れていく話か、ないしはそれらを乗り越えてハッピーエンドに至るファミリードラマかと思って、それに何の疑問も持っていなかった。
マフサ・アミニさんの事件を発端に起きたイランの政情不安も、長女の親友の一件も、あくまで家族の問題や絆を描くためのバックグラウンド、エピソードとして設定されているのかと思った。
前半~中盤にかけての人物描写はしっかりしていて、特に母親の複雑な心情の見せ方にはとても好感が持てたし、しっかり感情移入できて、さあ、問題を抱えたこの家族が、どうなっていくんだろう。価値観の違いが家族を破壊するのか、それとも許しと共感の展開が待っているのか…。ドキドキ。
そんな感じで観進めていくと、起承転結の「結」に入るあたりから、なんだか予想と全く違う展開になっていく…。
アレ、アレ、何だこれ、といった混乱の中で一気にラストまで到達。
そこで初めて、「ああ、これは100%政治的メッセージが主眼の映画だったんだ。」と気が付いた(あくまで私の見方です)。
太古の昔から人間社会が本来的に抱える男性の優位性と、近代以降それを是とせずに様々な試行錯誤を繰り返して来た歴史、それでも未だ全く道半ばで、ジェンダーに関わらず自由な幸福追求が出来ているとはお世辞にも言えない現実、それらについて思考を迫り、問題解決を阻んでいるものは何かを、強く考えさせられる映画でした。
こんな声が聞こえてくるよう。
「男どもよ、胸に手を当ててよく考えてみろ。お前は大丈夫か?」
同じく年ごろの娘二人を持つ父親としては、中々身につまされた…。