「タイトルなし(ネタバレ)」聖なるイチジクの種 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
2022年9月以降のイラン。
巷では、道徳警察に拘束された後、不審死を遂げた22歳の女性マフサ・アミニの事実解明を巡って抗議活動が続けられていた。
彼女はヘジャブの着け方を理由に道徳警察に拘束されたのだ。
若い世代では厳格化するイスラム政治に対する不満が高まっていたのだ。
20年間の勤務態度が認められて予審判事に昇進したイマン(ミシャク・ザラ)のふたりの娘レズワン(マフサ・ロスタミ)、サナ(セターレ・マレキ)もそんな若い世代だった。
妻ナジメ(ソヘイラ・ゴレスターニ)は、ふたりの娘にいくらかの理解は示しているが、それでも厳格な夫イマンを裏切るようなことはしない。
しかしながら、予審判事に昇進したイマンの様子が次第に変わっていく。
以前は家庭的であったが、現在は道徳警察から提出される膨大な起訴状を処理するだけで疲弊し、起訴内容も吟味できないまま、道徳違反・神法に対する反逆の名目での若い者への死刑判決への押印も押さねばならない状況だからだ。
そんな中、レズワンの親友の女子大生が大学の抗議活動に巻き込まれて負傷してしまう。
親友は革新的な思想の持主なのだ。
レズワンとサナは、彼女を家に匿って手当をしたが、一段落ついたところで彼女は学生寮に戻り、その夜、道徳警察に拘束され、そのまま行方不明となってしまう・・・
といったところからはじまる映画で、このあたりまでで中盤。
ポスターなどで喧伝される「家庭内で消えた一丁の銃・・・」というサスペンス映画を期待したら、この中盤までの社会派部分がすこぶる面白い。
残り1時間ほどになって、イマンが護身用に当局から借り受けていた銃が家庭内で行方不明となってしまうわけだが、この段になってからはまるで別の映画のよう。
小規模のヒネったサスペンス映画風で、家庭内に国家の暗喩を凝縮する狙いは面白いが、いささか平凡。
というか、あまり面白くない。
というのも、あまりに性急な展開で、イマンが強権国家の代替になるあたり、うまく描かれているとは思えない。
ま、業務多忙で、国家の権力に毒されてしまったのかもしれないが。
そんなヒネった(描写的にはグダグダな)サスペンス映画から、エンディングでは再び社会派の顔をみせる。
この構成は悪くない。
タイトルの「聖なるイチジク」が暗示するところは、疑念・信念・神の念・新しい時代を願う念、といくつもに解釈可能ですね。
<以下、ネタバラシ>
おまけとして、銃紛失の顛末、実際はどうだったのか。
真相が明確に語られないので、次のとおり推理しました。
なお、妹が銃を所持していたのは映画で描かれている。
姉が銃の存在そのものを知らなかったのは、彼女のリアクションで当然という前提。
父親による尋問に対する告白、その後のリアクションから考えると
1 母親がベッドサイドの引き出しから盗んだ(告白どおり)
2 盗んだ銃は母親が冷凍庫の中に隠した(告白どおり)
3 妹が冷凍庫から偶然、発見して所持
4 母親は冷凍庫の銃が紛失していることから「運河に捨てた」と告白した
ということかしらん。
前半と後半では大差はあるが、通してみれば、評価はこのぐらいといったところでしょうか。