「家庭内の緊迫感の描写が今一つに感じます」聖なるイチジクの種 QuantumGRさんの映画レビュー(感想・評価)
家庭内の緊迫感の描写が今一つに感じます
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2022年9月ヒジャブを着けなかったとして若い女性が道徳警察に逮捕され死亡した事件を基にした映画です。その映像をドキュメンタリーとしてイランでの人権抑圧を描写しています。
一方、それだけでは芸術性が薄いので、革命裁判所で調査官として働く男性の家族の問題や対立とセットにして、作品化しています。
しかし、両者がうまくかみ合っているようには見えません。
取り調べを重視せず判事のさじ加減で有罪にする現状に悩みながらも、男性は生活のためと割り切って生きるようになります。
長女は友人が受けた暴力、そして警察に連行される事態に誠実に向き合います。
母親は反政府活動に関わらないように2人の娘に諭します。
そのような中、父親の護身用拳銃が家の中から消えてしまいます。残念ながらこの事件が問題の種であるにもかかわらず、唐突すぎて違和感を覚えます。
男は、自身の組織内の保身のため、家族内の犯人を捜すことに必死になります。
このあたりの描写が冗長に感じますし、男の凶暴さも不徹底で鬼気迫るというほどではありません。家父長制の強い社会では、父親の存在感や圧迫感はとても強いと思うのですが。(私の経験では)
権力機構の末端に属することの象徴としての拳銃所持と、それが失われた失態に対する怖れは理解できます。
しかし、父親の拳銃を隠し、父親を危険にさらす向こう見ずな思春期の末娘の心理が不十分に感じます。
最後に、家族に対する詰問・軟禁、そして末娘とのドタバタもなぜか緊張感がありません。
上映の約3時間が、やや間延びした印象を与えます。
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