「小さいがゆえに愛すべき世界」時々、私は考える かみさんの映画レビュー(感想・評価)
小さいがゆえに愛すべき世界
完成度が高い名作とは言えないかもしれないけれど、心の糧にしたい映画に出会った。
不器用な女性社員が、新入社員でありながらも人付き合いに慣れた男性の誘いに乗り、新しい一歩を踏み出す。褒められることにも自分を語ることにも慣れておらず、相手に期待外れを感じさせてしまったり、不用意な言葉で傷つけてしまったり。小さな波風を味わいながら成長していくという予想の範囲内のストーリー。
人となじめない主人公フランが、同僚たちへの手土産にドーナツを買っていき大げさに喜ばれる場面は映画「夜明けのすべて」にそっくり。どちらの会社も、事情を抱えた主人公を適度な距離で見守ってくれている。ただし本作については何の仕事をする会社なのかは不明で、社員たちはランチに何を食べるか、窓から見える港の景色の変化などを始終おしゃべりしている。そうした会話が、フランの耳を無意味な音声の連なりのように通過していく描写が続く。
タイトルにもなっているようにフランは「時々、死ぬことを考える」(邦題では「死ぬことを」という重たい部分が省略されている)。 本当に希死念慮があるのかもしれないが、他者と同じ世界に居合わせながら、同じ話題や感情を共有できない主人公の孤独を表現しているように思った。同僚たちが会話に熱中しているとき、フランは自分を持てあまし、空想に浸らざるをえないのだ。
そのようにフランを置き去りにする同僚の会話を、不思議と耳障りには感じなかった。社員たち各人もじつは孤独であり、食べ物をめぐる他愛ない会話が、つかの間それを癒してくれる。そんなドライで、熱くなりすぎないけれど暖かい世界が描かれているように思った。
わからない英会話を少しだけ聞き取れたときのように、かすかに他者との接点ができる。しかしストーリーはそれ以上ドラマチックに広がっていくわけではない。そこを物足りなく感じられるかもしれないが、これは何度でも繰り返せそうな小さい一歩。そこに希望を感じた。
遅まきながら、コメントをありがとうございました。この職場は、退職する人のお別れ会を盛大に開くなどアットホームなようでいて、過剰にべたべたしない不思議な距離感がありました。
それが日本の映画「夜明けのすべて」とは対照的で、こちらは主人公たちの周りに共感の輪が広がるような場面、私には少しやりすぎに感じました。
フランの周囲の人達の、彼女への距離感がとてもいいと思いました。
みなさん、フランがコミュ障なのをきっと気にはしているんだが、敢えてそっとしておく、でも彼女の方からコンタクトしてきたら受け入れる。それが、あの差し入れのドーナツで職場のみなさんが大げさなくらいに「フランからの差し入れ」「フランありがとう」という反応になった。大げさだけどフランがいたたまれなくならないような歓迎の仕方で。こんな温かい人達がいる場所で働いて生活していけたらそれだけで幸せなのに、と私も妄想しました。
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