劇場公開日 2025年4月4日

「スタイリッシュだが薄味」アンジェントルメン 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5スタイリッシュだが薄味

2025年4月7日
iPhoneアプリから投稿

メインプロットのミッションを、
ストーリーの軸に据えつつ、
ガイ・リッチーらしい映像の妙技とテンポ感だけで観客を惹きつける作品だ。

しかし、このような「映像のおもしろさ」に全振りした映画が、
果たしてどれほどの観客を動員できるのかは疑問が残る。

映像の見せ方に依存しているため、
ストーリーやキャラクターに深みを求める観客には、
やや物足りなさを感じさせる可能性がある。

リッチーのキャリアを振り返れば、
スーパースローやタイムスライスのような、
軽快でスタイリッシュな犯罪劇が一部で「飽きられた」と感じられる原因も、
まさにこの「深みの欠如」にあったのかもしれない。

前作『コヴェナント 約束の救出』では珍しく、
仲間との絆や人間ドラマをシナリオも含め、
しっかりと描き、
やればできる、というスタンスを垣間見せたが、
『アンジェントルメン』では再び彼の得意ゾーンに回帰した印象が強い。

本作がリアル007らしいので、
例えば007シリーズと比較してみよう。

初期の作品群は、
メインプロットはスペクターのような敵を倒し世界を救う、
スペクタクルとエンターテインメント性を詰め込み、
Qの新兵器、多種多様のボンドカーや「007秒で停止するカウントダウン」、
ユニオンジャックのパラシュートといったギミックで観客を満足させた。

サブプロットは軽く、深く考えずとも楽しめる設計だった。

しかし、ダニエル・クレイグのボンド以降、
シリーズは一変する。

ボンドの自分探しやスパイとしての尊厳といった重厚なサブプロットが導入され、単なるアクション映画を超えたストーリーテリングが求められるようになった。

これは、現代の観客がエンターテインメントに「意味」や「感情の共鳴」を期待するようになった証左だろう。

確かに、豊富な火力、ウィットに富んだ会話、
豪華キャストの軽妙なやり取りは見事で、
映像面での「おもしろさ」は申し分ない。

だが、
観客の嗜好は変化している。

アニメでは抽象的で壮大なテーマが支持され、

マンガでは長尺で描かれる友情や精緻な物語が読者を引き込む。

世の中のエンターテインメントの質とスピードが向上する一方で、
観客は短時間で高濃度の刺激を求める傾向も強まっている。

007が時代と共に進化したように、
ガイ・リッチーもまた、
単なる娯楽を超えた何かを提示できれば、
さらに広い観客層を掴めるはずだ。

今のままでも十分に楽しめるが、「次の一歩」を踏み出さない限り、
彼の映画は「スタイリッシュだが薄味」という評価を覆せないかもしれない。

シナリオも書いている、
ロックストックとか
スナッチとかは、
一周回って若い人たちにもウケるのかもしれない。

蛇足軒妖瀬布