「サメと戦う環境活動家」セーヌ川の水面の下に 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
サメと戦う環境活動家
川へ遡行してくるジョーズ、グエムルぽい感じもある。
定番のパラメータを踏襲している。
リリス(変異で単為生殖する巨大アオザメの通称)に仲間をやられた環境活動家とそのトラウマ。しっかりと無理解な市長。大規模な催事がいちばんヤバい時に開催されること。
そういう陳套なサメ映画の常設展示物が「なにやってんだきみたちは」という印象を終始いだかせるが、つっこみをいれながら楽しめる罪のないテレビ映画といえる。
ミカ(Léa Léviant)たちは名画にスープを投げつけるタイプのエモーショナルな活動家で、主人公であるソフィア(ベレニスベジョ)や河川警備隊と反目して惨事になる。
またトライアスロン大会ではさらなる惨事になって、リリスが人をくいちぎりまくわ不発弾は爆発するわ洪水が巻き起こるわサメは繁殖するわパリ中がサメ天国になるわで、ヴォネガット風に言うなら「排泄物がエアコンに入った後」という感じ。パニック映画の面目躍如で、徹尾娯楽を指向したいい映画だったと思う。
ところで、このようなサメ映画の巻き起こす乱痴気を鑑みるとき現実だって似たようなもんだという諦観にぶち当たることはないだろうか。万博にしても都知事選(2024.7)にしても政治資金にしても、ここに出てくる圧倒的に無理解な市長と五十歩百歩の人がそこに群がって自分の利益を実現しようとしているだけ──のような気がしないだろうか。
社会派じゃないからヤフコメみたいなことは言わないが、数多のパニック映画に出てきて主人公の危機感に反駁する危機感皆無の首長とは、基本的に現実にいる首長のカリカチュアであることを我々はなんとなく知っている。得てしてそういう人間が首長になるからこそ、パニック映画内でも人の上に立って大災害の原因をつくり出すわけである。
モンスターパニックでは人間の廃棄物によって突然変異したなにか──という前提要因がある仕様上、人災の要素は免れることはできないが、そこに輪をかけて物事をめちゃめちゃにしてくれる首長が現れ、文字通り「排泄物がエアコンに入った後」のような惨事へなだれ込む。そんな人の所業が根源悪という様相をこの映画はよく表現しているし、啓発的なところもある。
冒頭にでてくるのはゴミだらけの海。フランス国土の五倍というプラスチックの溜まり場だそうだ。水面下ではプラ漁網に絡まった鯨が死んでいる。プラスチックは半減期が長く、ぐぐってみると2050年には海洋のプラゴミが魚の量を上回るそうだ。!。
じぶんは海辺に住んでおらず映画等でもゴミだらけの海をなかなか見ることがない。よって個人的にこんなひどいことになっているのかという驚きがあった。
なお2024年パリオリンピック(7月26日~8月11日)にてセーヌ川は開会式およびマラソンスイミングの会場として予定されていて、映画と全くおなじ状況を間近に控えており目下、浄化に躍起になっている──とのことだったが、道頓堀の6倍の大腸菌が検出された──というネットニュースもあった。
imdb5.3、RottenTomatoes56%と33%。
ナンセンスだと言っている批評家が多いが、ほめている批評家もいる。半々だった。
常套で既視感があるが大真面目にジョーズ映画をつくろうとしているところがいい。日本映画だと気取りや斜に構えるばかりでマジになって娯楽映画やろうって人がほとんどいない。
また日本的な概念だと川はもっと狭くて浅い。体長7メートルのアオザメが泳げるような川というのがやはり外国だと思うし、そんな川がパリ大都市圏を流れているからこその映画でもあった。