「アラタ目線で騙されて、真珠目線でラブロマンスのかけらを拾おう」夏目アラタの結婚 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
アラタ目線で騙されて、真珠目線でラブロマンスのかけらを拾おう
2024.9.6 イオンシネマ久御山
2024年の日本映画(120分、G)
原作は乃木坂太郎の同名漫画(小学館)
被害者の体の一部を探すために死刑囚と結婚することになった児童福祉司を描いたサイコミステリー&恋愛映画
監督は堤幸彦
脚本は徳永友一
物語の舞台は、東京の隅田川近辺
児童福祉司として働いている夏目アラタ(柳楽優弥)は、ある日、観察中の山下卓斗(越山敬達)が世間を騒がせている「品川ピエロ」こと品川真珠(黒島結菜、幼少期:木村心)と文通をしていたと聞かされる
さらに自分の名前で手紙を出されていて、とうとう「直接会いたい」という返事が来てしまった
卓斗はいまだに行方不明になっている父・良介(皆川暢二)の頭を探していた
そこでアラタは、卓斗の代わりに真珠と会うことになり、父親の頭を探すと約束を交わした
拘置所にて面会に至ったアラタだったが、真珠は初見にて入れ替わりを見抜いてしまう
焦ったアラタは「俺と結婚しようぜ」と言い出し、そこから奇妙な関係が始まってしまうのである
映画は、1日20分の面会の中で「頭の所在を探る」という内容になっていて、前半は心理サスペンスの展開を迎えていく
だが、報道で知る姿、私選弁護士の宮前(中川大志)から聞かされた人物像とは異彩を放っていた
報道された品川ピエロは太った大柄の女だったが、目の前に現れたのは「少女」とも見まごう小柄で華奢な女性だった
さらに真珠はアラタの言葉を鵜呑みにしているようで、結婚に前のめりになる一方で、何かを確認している様子が描かれていく
原作が今年の4月に完結したばかりで、企画段階では未完状態だったという
そこから原作者との綿密な打ち合わせを行なってシナリオを構築し、撮影に至った
映画は原作に忠実に作られていて、エピソードの取捨選択が行われている状態だが、そこまで違和感のある内容とは思えなかった
サスペンスとしても、次にどう展開が動くのかが読めない感じになっていたが、全編を通した感想だと、「アラタ目線だとミステリー、真珠目線だとラブロマンス」という二つの映画が同時進行していたことになる
訳あって2回鑑賞することになったが、初回はアラタ目線、2回目は真珠目線で観ることになった
映画は、ラブロマンスである要素も前半からきちんと描かれて、冒頭のイメージショットに登場する数々の「X」にも意味があった
このあたりがうまく繋がるところに、本作の面白みがあると言える
それでも、初回から真珠目線のラブロマンスとして観るのは無理に近いので、素直にミステリーだと思って観て、実はラブロマンスだったという感想を抱く方が良いと思う
それほどに、アラタと真珠の間には溝があって、それがラストシーン(ポストクレジット後のワンシーン)によって埋められるようにできていた
猟奇殺人犯と獄中結婚をする慣例とか、逮捕から起訴、棄却に至る流れにおける「ある落とし穴」というのは巧妙に構成されていた
実際に同じことができるかはわからないが、映画の真珠の目的を考えれば、漫画的とは言え許容の範囲のように思えた
いずれにせよ、主演二人の演技に助けられている部分は多いが、個人的には2度目も楽しめる内容で、悪くない出来だと思う
拘置所内の心理サスペンス、法廷におけるミステリー、さらに随所に散りばめられたラブロマンス映画のかけら
このあたりを堪能するには、集中できる映画館の方が良いかもしれない
原作ファンだとオチは知っていると思うので、2回目の鑑賞のつもりでラブロマンス要素を探しながら観るのも面白いかもしれません